蓮の見た夢

 ウル×織SSです♪(^^)
 今回のお題はですね、ウルキオラの斬魄刀の実体化っていうことだったり
 アニメで今、斬魄刀異聞っていうのをやってて、死神たちの斬魄刀が実体化して持ち主と戦ったりしてるんですよね(^^;)蛇尾丸とか袖白雪とか――すごくイメージ通りな実体化の姿をしてたので、「おお!」と思うと同時、でもストーリー的にはやっぱり斬魄刀の精が洗脳されていただけっていう、ちょっと「う゛~ん☆」な展開だったり。。。
 いやまあ、基本的にアニメが原作に追いついちゃうから、その時間稼ぎとしてオリジナルストーリーが入ってるっていうのはわかるんですけど、実体化した斬魄刀と持ち主が戦うのってなんか矛盾を含んだところがあって、その部分を埋めるのが難しいのかな、なんてww
 いえ、そのアイデアと実体化してる斬魄刀たちはすごくイメージどおりで、ヴィジュアル的には成功してると思うんですけども(^^;)そんでもって村正さんも、名前に似合わずヴィジュアル系(笑)で、どっちかっていうとそれ系のバンドのヴォーカリストとしてルドルフ=ムラマサ(仮名☆)とか名のってそう……でもきっともって彼は悲劇的に悲しく死んだり消えたりする運命なんだろうな。ポッケ☆に手を突っこんだクールキャラなので、なんとなくウルたんっぽい感じのある村正さんですが、なんか彼が目から血を流してるところを見ただけで、ウルたんを思って悲しくなりますww
 なんにしても、ウルたんの斬魄刀がもし実体化したらっていうネタ☆は、前にもちらっとだけ考えたことがあって――でもそこまでオリキャラ要素が入ると流石にどーだろう、なんて思って、それ以上考えるのはやめてました(^^;)
 えっと、その時に思ったのは、ウルたんってヤミたんとか、多少気が合う(?)破面がいても、ノイトラに対するテスラとか、グリムジョーに対する部下たちみたいな存在とか、そういう人がひとりもいないと思ったので、斬魄刀と相思相愛っていうのはどうだろう……なんて思ったんですよね
 まあ、ファンタジーのお話とかで、剣が持ち主を支配したり、意志を持った剣が持ち主のことが好きで他に異性がよりつきそうになると追い払うとか、結構あると思うので、もしかしたらウルたんもそれで孤独だったりして!?とちょっと思ったりしてたんです。んで、そっから話を押し広げてちょっと小話書いてみようかな~なんて……でもなんかイメージ違うって読んだ方に思われそうな気がしてその時は尻ごみしちゃったんですよね、なんとなく(^^;)
 そんでもまあ、なんかいっか☆な気分になって書いちゃったのが↓のお話っていうことだったりww
 あと、もうひとつ自分的な願望としてウルキオラは絶対に(したことなくてもただひたすら勘で☆)えっちが上手いに違いないと病的に思いこんでるので――そうなるとやっぱり、織姫の前に誰か相手がいないとおかしいな……と思ったっていうのがあって、じゃあやっぱり斬魄刀が女性として実体化して愛しあうっていうパターンしか自分的に思い浮かびませんでした(^^;)
 なんかこう、人間だった頃の記憶や本能が残ってるっていうのもアレだし、他の破面の女子(笑)たちと「俺だって火遊びくらいしたことはあるさ☆」なんていうのもウルキオラらしくないし(爆ww)
 そんなわけでまあ、斬魄刀と実は愛しあって(?)ますみたいなパターンはどうだろう、と……。
 うん、ウルキオラって本当はひとりじゃなくて、存外孤独でもなかったっていう部分も少しだけ書いておきたかったっていう気持ちもあるんです。でもそこだけほんのちょっと真面目要素☆が入ってるってだけで、基本的には今回もただのエロ話と思って読んでいただければそれが正解(エサクタ!)です(笑) 
 あ、このSSもちろん、ウルキオラ×斬魄刀なお話じゃなくて、あくまでウル×織メインなのでご安心(?)くださいね♪(^^)
 そんでもってウルキオラの斬魄刀の名前、翠蓮(スイレン)にしちゃったんですけど、まあなんとも安直なネーミングだと自分でも思います
 なんにしても、お楽しみいただけたとしたら、とても嬉しいです♪
 それではまた~!!(^^)/
 




       蓮の見た夢

 ――きのう、こんな夢を見た。

「ウルキオラさん、お願いします。抱いてください」
 夢の中で女は全裸で、俺はただ井上織姫の胸のあたり――自分にとって<孔>の空いているあたりを、ただじっと凝視していた。
「服など脱いで、一体なんのつもりだ?」
 そう訊くと、女はただ恥かしそうに俯き、それでいて一歩、俺のほうへ近づいてきた。
 様子がおかしい、とは確かにその瞬間にも思った。第一、井上織姫という小娘は、俺の知る限りにおいて、こうしたことを自分から積極的に行うような女ではない。
 俺自身にしてみたところで、その後にとった行動は奇妙なものだった。
 女が二歩三歩と近づいてくればくるほど――何かを怖れるように、後ろに退いていたのだから。
「ウルキオラさん、あたし……本当はあなたのことが………」
 (好き)
 という言葉は音声にはならず、女はただそのような形に口を動かしただけだった。
 そして俺の首に両手をまわすと――そっと薄い桃色の唇を押しつけてきた。
「女……」
 どういうつもりだ、と聞こうとして、俺もまたそう言うことが出来なかった。
 井上織姫の柔らかな胸な自分のそれに押しあてられ、一糸纏わぬ女の素肌に欲望をかきたてられそうになる。
(欲望、だと?)
 その瞬間、俺はあることにはっきりと気づいていた。
 この女は本当の井上織姫などではなく――おそらくは自分の作りだした幻に相違ないということに。

「……夢、か」
 自宮の己が寝室としている部屋で、俺は目が覚めるなり、くしゃりと前髪をかきあげた。
 普段はほとんど滅多に夢など見ることはないのに――しかも人間の女が全裸で現れたということに対して、俺は多少困惑していた。
 第一、井上織姫の裸の姿など、一度も見たことなどないというのに、夢の中のあの女はなんというリアルさで自分に迫ってきたことだろう……。
(まさかとは思うが、俺の中にもしやそうあればいいという願望がひそんでいるのか?)
 そう思い、(馬鹿な)と思った俺は、無意識のうちにも枕元の刀――斬魄刀に手を伸ばしていた。
 そしてふと気づく。
「翠蓮、もしかしておまえのせいか……?」
<翠蓮>というのは、俺が帯刀している斬魄刀の名前だった。
 彼女――翠蓮とは、もしかしたら彼女が俺で、俺が彼女だったかもしれないという間柄であり、藍染様の手により破面として俺が誕生した時に、恐怖と苦痛の中でどちらが「主」となり「従」となるかを混沌とした精神世界で争いあったという経緯がある。
 今にして思えば、スイレンに主導権を譲り、むしろ俺自身が斬魄刀という存在になるべきだったものを……と心からそう思う。
 だが、気も狂いそうな混沌とした世界で、最後の最後で彼女は俺に「主」の立場を譲り、自分は斬魄刀になるという道を選んだのだ。
 そして俺は破面として、ここウェコムンドの砂漠世界で修行を積んでいた時――刀と対話しようとして、翠蓮に幻を見せられたことがある。
 最期に自分がどのような末路を辿って死ぬことになるかという、その場面を……。
 その幻の中で、俺はよくわからぬ絶大な力を持つ敵と戦い、最後には灰となって消えていた。

「だから、一体なんだというんだ?」
 その時、俺は幻の中で具象化したスイレンと相対していた。
『わたしが言いたいのは――戦うことに一体どんな意味があるのか、ということだ。
 ウルキオラ……おまえは強い。もしかしたら、藍染様を凌駕するかもしれぬほどに。
 それなのにおまえは真の姿さえも主である藍染様に隠し、なおも彼に仕えようとしている……。
 わたしにはもう、おまえがわからない』
「そんなことか。くだらんな……藍染様がいなければ、今の俺はここにこうして存在していない。それに死神どもを滅ぼすのは、我らホロウにとって悲願にも等しいことだ。藍染様に協力することは、我ら一族にとってプラスにはなってもマイナスになることはない、俺はそう理解しているがな」
『わたしにまで、嘘をつくな、ウルキオラ。
 おまえは本当は――そんなことすらどうでもいいくせに。
 あの恐ろしい男が、死神が、本当に我々の味方だなどと、本気でそう思っているのか。
 目を覚ませ、ウルキオラ。わたしは灰になっておまえを死なせるために――魂魄の主導権をおまえに譲ったのではないのだぞ』
「そうだな……本当はおまえが俺となり、俺自身が斬魄刀の身となるべきだったのだろう。だがそんなことを今さら論じてみたところで後の祭りだ。現にスイレン、おまえは今斬魄刀という俺の従属物であり、もし仮に俺がおまえと成り代わりたいといくら願ったところで――互いを入れ換えることは叶わんのだからな。つまりは、そういうことだ。藍染様によって生まれ、存在している俺が藍染様に逆らったところで、そこに意味はない……そうして駒のひとつとして戦い、敵に破れたところで、大したことではないだろう?もとより我らに救いなど存在しない。違うか、スイレン?」
『そうだ、だが、わたしは――……』
 美しい、翡翠色の水面には、睡蓮の花がいくつも浮かんでいた。
 その薄い桃色の大きな花のひとつが開くと、病的なまでに白い肌をした女が、たった今誕生したとでもいうように、裸のままの姿で立っている。
「わたしは、どのような形であれ、おまえを死なせたくない」
 碧玉の瞳に、エメラルドの輝くような長い髪……俺はこれが自分の持つ斬魄刀の真の姿なのだと知り、いささか驚いていた。
「スイレン、おまえが俺を死なせたくないと望むのは――おそらく、俺が死ねばおまえも消滅を免れえないからだ。違うか?」
「そうかもしれぬ。だが、わたしはおまえのことを……」
 (愛している)
 はっきりと、そう言葉によって発音されなくても、俺にはスイレンが言おうとした言葉が理解できた。
 いや、愛などという戯言を信じる気はない。
 だがそれでも――スイレンが唇をあわせ、舌を絡ませてきた時、それを拒む気にはなれなかった。
 そして彼女が自分の体の上で恍惚として果てるのを見た時、俺は女という生き物の本性を理解したような気がしていた。
『わたしは、おまえのしもべ……従属物だ。
 ウルキオラ、わたしはおまえを愛している。
 そのことを、絶対に忘れるな』

「スイレン、先ほどの夢は、もしかしておまえが見せたものか?」
 斬魄刀が人間の女に嫉妬するとも思えなかったが、どちらにせよくだらぬことだと思った俺は、その日もまずは井上織姫が監禁されている部屋へと向かった。 
 あの人間の女がきちんと朝食を食べているかどうか、チェックするのも俺の大切な役目だったからだ。
「――入るぞ」
 特別ノックもせず、ただそう一言声をかけて、俺は井上織姫の部屋に入室した。
 と、同時に、一瞬体の動きが止まる……何故なら女はちょうど着替えをしているところで、袴を身に着けたあと、下着の上から上着にあたる部分を被ろうとしているところだったからだ。
「あ、あの、あたし……前にも言ったような気がするんですけど、出来ればあたしのほうできちんと返事をしてから部屋の中には入ってきて欲しいっていうか……」
「くだらんな。そもそも何故俺がそこまで貴様に気を遣わねばならない?」
「そっ、そうかもしれないけど……!!」
 女は怒りのためか羞恥のためか、顔を赤くしながら破面服の続きを着用している。
 俺はそんな井上織姫の着替える姿を眺め――今朝方見た夢の中に現れた女の裸身と、今目の前にいる井上織姫の肉体とを重ね合わせてみたが、実際のところ脱がせてみないことにはそれらが同一のものかどうかというのは確かめようがないと思った。
「今日の朝はきちんと食事をとったのか?」
 女は着替えを終えると、最後に栗色の長い髪を軽くまとめるようにし、こめかみのあたりのピン留めをとめ直している。 
「はい……朝からお好み焼きっていうのも、最初はどーかなって思ったんですけど、食べてみたらこれがすっごく美味しくて!!それにあのホロウの部下の方、神業的に引っくり返すのがうまくてもうびっくりっていうか!!」
「そうか。ならば、修行を積ませた甲斐があったというものだ。藍染様からお声がかかるまで命を保つのもおまえの務めだ……これからも食いたいものがあったら言え。コルドン・ブルーのレシピ張もこの間とり寄せておいたからな。ミシュランから星を減らされて自殺し、ホロウとなった料理長にフランス料理のフルコースを作らせてやってもいい」
「あ、あの……」
 井上織姫はためらいがちに俺のほうを見上げると、珍しく視線を合わせるようにじっと見返してきた。
「一体なんだ?言いたいことがあるなら、はっきり言え」
「なんていうか、そんなに気を遣わないでください。あたしはただの捕虜のようなものだと思うし……美味しいものを食べられるのは嬉しいけど、なんていうか……」
「気にするな。第一捕虜というものは手荒に扱ったのでは意味がない。俺の言っている意味がわかるか?」
「えっと……」
 わからない、というように首を傾げている女に対して、俺は心の中で微かに笑った。
「つまり、利用価値のある間は丁重に扱っておいたほうが我々にとっても得策だということだ。藍染様はこう俺に命じた――井上織姫、おまえのことを飼いならせ、とな。つまり人間が家畜に餌をやるのと、俺がおまえに食事を与えることの間に大した差異はない……そういうことだ」
 俺のこの言葉を聞いて、女は怒ったのかどうか、ぷいっと顔を横に背けていた。
 だがまあ、きちんと食事をしたのならばそれでいい――そう思った俺は、井上織姫の部屋をでていこうとして、カツ、と踵を返した。
「そういえば、女……」
 俺はふと、もう一度今朝方見た夢のことを思いだして、念のために井上織姫にこう聞いてみることにした。
「おまえ、もしかして今日、おかしな夢を見なかったか?」
 最初はありえない、そう思ったが、女の顔がみるみる赤くなっていくのを見て――俺はひとつのことを確信していた。
「ど、どうしてそんなこと……!!まさかあの夢って、ウルキオラさんが……!!」
「そうか。わかった」
 俺はそれだけ答えると、急いで自宮の自室へ戻るために、井上織姫の部屋を後にすることにした。
(やはり、そういうことか)
 そう思い、翠蓮――己の帯刀する斬魄刀と対話するため、俺は少しの間自分の部屋に、閉じこもることにしようと思った。
 何より、スイレンが井上織姫のことをどうするつもりでいるのか、その意図をはっきり確認しておく必要があると思ったからだ。

『ウルキオラ、おまえは本当に――自分にとって都合のいい時だけ、わたしを呼びだすのだな』
 蓮の花の中からスイレンは姿を現すと、透き通るような水面の上に波紋を広げながら、一歩一歩俺に向かって近づいてくる。
「都合のいい時だけ、だと?勘違いするな。俺が死ねばおまえもこの世界からは消滅する……いってみれば、おまえは俺で俺はおまえなのだと言ったのは、スイレン、おまえのほうが先ではなかったか?」
『確かにな。だが、忘れてもらっては困る。わたしはおまえにとっては表に現れる意識の底に眠る、もうひとつの意識――無意識にも近い存在だということをな。つまりわたしはおまえが今、何を一番欲しているかをよく知っている……その結果が、おまえが今朝見たあの夢だ』
「なんだと?俺があの人間の女を欲しいと思っているとでもいうのか?」
 馬鹿馬鹿しい、といったように俺は一笑に付そうとしたが、スイレンは夢の中でと同じように、井上織姫として一糸纏わぬ姿になると、蓮の葉の上に立っていた。
「悪趣味な真似はよせ。俺はあの女の姿をしているおまえと寝るつもりはない」
 俺がそう断じると、スイレンはまた元の斬魄刀の精としての姿に戻っている。
『そうか……だが、ひとついいことを教えてやろう、ウルキオラ。
 わたしにはおまえがまだ知らぬ力が眠っていてな、それが夢魔としての能力だ。
 わたしは今朝方あの夢をおまえに見せるずっと前から――おまえの姿を借りて、井上織姫という女と繰り返し寝ていた。
 今わたしは女の姿をしているが、それというのもおまえがわたしに<女>としての形を己も知らぬ無意識の中で望んだからだ。
 これが一体どういう意味か、わからぬおまえではあるまい?』
「いや、わからんな……まさかとは思うが、スイレン、貴様は………」
 くすくすと笑い、スイレンは俺が立っている緑の蓮の葉の上までやってくると、俺の腕を掴みどこかへ連れていこうとする。
『そうか。おまえにもまだわからぬことがあるとは楽しいな。
 ついでに、面白いものを見せてやろう……おまえがそれを知ってあの女――井上織姫のことをどうするのかが、楽しみだ』
「……………!!」
 スイレンの碧玉の瞳に俺自身の意識が飲みこまれるような感触があったすぐあと、あたりは闇色の緞帳が下りてでもいるように、黒一色に塗りつぶされた。
 そして俺は気づく……ここはまるで、閉次元にも似た空間ではないか、ということに。
『ウルキオラ、この世界ではおまえは無力だ。
 いつもはおまえが「主」として刀であるわたしを使っているが――この場所ではそうはいかぬ。
 そうしてただ何も出来ずに、ここであの女の本性を見極めるがいい』
「スイレン、貴様……!!」
 だが、そう言った俺の言葉自身、力を持っていなかった。
<力を持っていない>というのはようするに、自分ではそう言ったつもりでも、実際には周囲の闇に静かに吸収されて消えたということだった。
 見ると、先ほどまで自分の腕や足や体だと認識していたものまで消えてなくなり、俺の意識はあたりの闇と同化したように、姿や形といったものをまったく失っていた。
(これは、一体どういうことだ……)
 己の意識というものを、まるで闇の中に影として鋲でとめられたように、俺はもはやそこから<動く>ということができなかった。
 ただ、この奇妙な拘束力はそう長く続くものではないことが、漠然とわかっていたために――スイレンの言ったとおり、これから起きることを意識という名の<存在の目>で確かめることにしようと思っていただけだった。

「ウルキオラさん、あたしずっと待ってたんです……いつになったら来てくれるのかなって、毎日そんなことばっかり考えてて……」
(――!?)
 闇の緞帳が不意に開いたかと思うと、そこには井上織姫が監禁されている部屋の様子が映しだされていた。
 特に室内に変わった様子も不審な印象もないが、ただ俺が気に触ったのは――もうひとりの自分がその場所に存在しているという、悪趣味な趣向だった。
 そしてスイレンが、俺という目に見えぬ存在に向かって、(黙って見ておれ)というように、微かに視線を送ってよこす。
「大人しくいい子にしていたようだな、織姫。それにしても、おまえは一日に何度見ても可愛いな……どれ、その可愛い唇にキスでもしてやろうか」
(……スイレンっ!!
 俺はムカっ腹が立つあまり、どうにかして奴の邪魔をしてやりたくてならなかったが――あいつの言ったとおり、確かにこの異空間というべき場所においては、俺の力はまったく及ばないようだった。
 いうなれば、普段とは逆にこの空間ではスイレンが「主」で、俺のほうが「従」なのだ。
「あっ……だめ。ウルキオラさんったら!!来てすぐにそんなこと……」
 スイレンはソファに井上織姫のことを押し倒すと、実に器用に服を脱がせにかかっている。
「なんだ?俺を待っていたというのはようするに、こうされるのを待っていたということではないのか?」
 女は、抵抗しなかった。というより、スイレンの言ったとおり言葉上は拒みながらも、確かにそれを待っていたというように、体の反応のほうはむしろ積極的であるように見える。
「もうこんなに濡れているのか……仕方ないな。ご褒美をやろう」
 俺に化けたスイレンは、井上織姫の足の間に顔をうずめると、わざといやらしい音をさせるように、しつこくそこを繰り返し舐めている。
「あっ……はぁんっ。駄目、ウルキオラさん、もう、もう――っ!!」
 あまりに悪趣味な情景に俺は目を閉じたくなったが、不思議と目を逸らすことが出来なかった。
 何よりも意外だったのが、井上織姫が俺に抱かれながら、まったく嫌がっていないということだったかもしれない。
 だが、こんなものは所詮ただの夢に過ぎないのだ。現実の井上織姫という女は、こんなにも淫らに男に向かって自ら足を開き、喘ぎ声を洩らすような女ではないと――俺はその点についてだけはまったく疑わなかった。
 スイレンはおそらく、興味本位にこんな幻を俺に見せ、ただからかいたいだけに過ぎないのだ。
「気持ちよかったか、井上織姫」
 袴を着つけ直しながら、俺の姿をしたスイレンは、そう言って女の頭を優しく撫でている。
「はい、とっても……でもあたし、いつもウルキオラさんによくしてもらってばっかりだから、今度はあたしがしてみたいと思うんですっ!!」
 ――その後の女は、見ている俺のほうでも驚くばかりに積極的だった。
 だが、もしスイレンがこのあと、俺が無意識のうちにもこうした願望を持っていると言おうものなら、俺は自分の斬魄刀とどう接するべきなのか、これから考えをあらためざるをえなかっただろう。

『どうだ、ウルキオラ。
 あの人間の女は――存外、おまえが自分で思っている以上に、おまえのことを好いている。
 あとはおまえが、ほんの少しばかりリードしてやれば……』
 再び、蓮の花や葉がいくつも浮かぶ水面上の世界で、スイレンはいつもどおりの姿に戻って俺と対していた。
「馬鹿をいうな、スイレン。あんなものはおまえ自身が作りだしたただの幻の世界に過ぎない。現実の井上織姫という女は――俺が指一本でも触れようものなら、拒絶してよこすだろう。おまえはまったくわかっていない」
 すると、スイレンはくつくつと喉を鳴らしてさも愉快そうに笑っていた。
『わかっていないのはおまえのほうだ、ウルキオラ。
 あの井上織姫という名の人間の女は――もう何日も前から夢の中でおまえに化けたわたしに抱かれている。
 最初はためらいがちではあったがな、そのうちそれが現実になんの影響も及ぼさぬただの<夢>だと確信するなり、あの娘はとても大胆に振るまうようになった。
 その意味するところが、おまえにもわからぬわけではないだろう?』
「……………」
 つまり、今朝女の部屋を訪ねた時に<夢>と聞いて井上織姫が激しく動揺したのはそのせい、ということなのか。
 もし本当にそうだとすれば、あの女は……。
『ようやくこれで、おまえにもわかったようだな、ウルキオラ。
 傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲――おまえは破面として誕生する時に、そうした負の感情と呼ぶべきものを、すべてわたしひとりに押しつけて寄こしたのだ。
 そして自分は何も感じぬ虚無に悩まされているというような顔をしていたわけだ。
 だが、これでおまえにもようやくわかっただろう……。
 それであればこそ、<おまえにはわたしが必要なのだ>ということがな』
「失せろ」
 俺が押し殺したような声でそう一言呟くと、この世のものとも思えぬ清浄な空間は露と消え去り、俺は自宮の自分の部屋で、抜き身の刀と相対しているところだった。
 最後に見た、スイレンの勝ち誇ったような顔が、俺は気に障って仕方がなかったが――それでいて、もうあの人間の女とは今までとまったく同じ関係ではいられないだろうこともよくわかっていた。


 それでもあえて俺はその夜、井上織姫の様子を見にいかなかった。
 俺の斬魄刀がおかしな夢を見せてすまなかったと詫びるというのも、第一おかしな話だ。
 そして何より――スイレンが夢の中で見せた、あの女の絶頂に達した時の顔が、頭から離れていかないのが何より一番の問題だったといえる。
 だが俺は何をどうしても、スイレンの思うつぼにはハマりたくなかった。
 それでただ、自分の寝室で横になり、悪い夢の毒気のようなものが去っていくのを待っていたのだった。


       織姫:

 あたしはその日の夜も、ウルキオラさんがやってくるのを待っていた。
 ううん、<現実>の彼があたしに対して本当の意味で興味を持っていないのはわかってる。
 それでも――今朝、「おかしな夢を見なかったか?」と問われたことで、もしウルキオラさんもあたしが見たのとまったく同じ夢を共有していたらと思うと……なんだかとても不安だった。
 もし仮にどんなに問い詰められても、白を切りとおすということは出来るかもしれない。
 でもあたしにはわかっていた。彼がきっとあたし自身の淫らな本性を見抜いても、これからもただ淡々と<仕事>として、必要最低限あたしと接するだろうということが。

 初めてウルキオラさんが夢の中であたしのことを抱いてくれた時、彼があたしに触れる指は微かに震えていた。
「人間の女は、壊れやすそうで触れるのが怖い」とそう言って。
 あたしは、彼の無表情でいて、どこか寂しげな横顔に、何故かその時胸が締めつけられるものを感じていた。
「あたし――あたしはウルキオラさんのこと、怖くないよ。それに本当は優しい人だっていうことも、わかってるつもり……だって、ガルガンタを通る時も、あたしのことを優しく運んでくれたでしょう?」
 そう、ウルキオラさんが現世の待ち合わせ場所で、ガルガンタへの扉を開いた時、あたしは絶望の底に吸い込まれるような恐怖をそこから感じて、足が竦んでいたのだった。
 でも、そんなあたしのことを彼は、ただ黙ってお姫さま抱っこをして運んでくれたのだ。
『怖いか、女。だったら目を閉じていろ。そして俺がいいと言うまで絶対に開くな……わかったか』
 は、はい……と震える声で答え、あたしはウルキオラさんの言うとおり、ぎゅっと目を瞑った。
 彼がふわりと自分のことを抱きあげた時の感触を、今もよく覚えている。
 ガルガンタを通過中、思わず一度だけそっと目を開いた時――彼と目が合ってしまった時のことも。
『俺がいいと言うまで、目は閉じていろと言っただろう?』
 あたしはまたこくりと頷き、ウェコムンドに通じる扉が開くほんの一瞬前、ウルキオラさんはあたしのことを霊子の足場の上へおろしたのだった。
『あ、ありがとうございます……本当に、あたし、あの………』
『礼など無用だ。この扉の向こう側は、藍染様のいらっしゃる玉座の間に通じている。俺に対する礼などより、藍染様の前で粗相のないように気をつけるんだな』
『はい……』
 ――たぶんそのあと、恐ろしいくらい強い霊圧と霊圧の狭間に身を置かれても、あたしが耐えることが出来たのはウルキオラさんのお陰だったのだと思う。
 グリムジョーの傷を治した時、彼が破壊の衝動に身を任せるようにルピっていう人のことを殺してしまって……本当に、怖かった。
 それで救いを求めるようにウルキオラさんのほうを見ると、「体の震えを誰にも気づかれないようにしろ」、彼は小さな声でそう、あたしの耳元に囁いていた。
 その後はただ無言で部屋に案内され、「ここで大人しくしてろ」と言われただけだったけど――でもあたしにはその時にはもう、はっきりとわかってしまっていた。
 ウルキオラさんはウルキオラさんで、彼なりにあたしに気を遣ってくれているんだっていうことが……。
 
 夢の中でウルキオラさんは、あたしの顔の輪郭を何度もなぞり、そして唇に口接けた。
 その時どうして抵抗しなかったのか、あたしも自分で自分がわからなかった。
 無意識のうちにも、それが本当は夢であるとわかっていたせいなのか……でも夢にしてはあまりに彼が触れるその感触はリアルなものだったと思う。
「服を、脱げ」
 そう命じられると、あたしはただ「はい」としか答えることが出来なかった。
 相手が、逆らえないほど強い力を持った破面だからとか、どうせ抵抗しても無駄なだけと思っていたわけでもなく――ただ、ウルキオラさんが喜ぶようなことをしてあげたかった。  
 ウルキオラさんに抱っこされてガルガンタを通った時、あたしはなんとなく気づいてしまったから……。
 この人にはたぶん、<何か>が決定的に欠けていて足りないのだと。
 そしてもしその何かを埋めるものが自分の身内にあるのなら――ただ黙って差しだしてあげたいような、そんな気持ちに、あたしは不思議となっていた。
<孤独>とか<寂しい>といった感情を、彼自身が抱えているとは思わない。
 たぶん、そうした感情についてや、他の<愛>とか<喜び>といった感情についてもおそらく彼は、「そういうものが人間の心にあると知ってはいるが、自分はそんなものを感じたことはない」とでも言うだろう。
 それなら――体を通して<それ>を感じてもらうしか……。
 破面服を脱いだあと、彼は随分長い間、あたしの裸の体を、両方の手をポケットに入れたままで眺めていた。
「あ、あの……」
(これで、いいですか?)――そう言おうとして、喉の奥から言葉がでてこない。
 そして実際にはたぶん数分の間でも、その何倍もの時間が流れたように感じたあとで、ウルキオラさんはこう言ったのだった。
「ああ、それでいい」
 ――その後に起こったことは、とても言葉では言い表せない。
 ウルキオラさんの指や舌が、どんなふうにあたしの体の上を滑っていったか、そして最後に自分が一体何を失ったのかについても……。
 ベッドの上でハッとして目を覚ました時、あたしは自分があまりに淫らな夢を見ていたことに驚いていた。
「夢……」
 それにしては、あまりにも生々しい感触が体に残っていたし、実際次の日に鏡を見た時――首筋や胸のあたりにはキスマークのようなものが消えない刻印のように印されてもいた。
(本当にあれは、ただの夢なんだろうか?)  
 朝食を食べている時、ウルキオラさんがやってきて、いつものように「美味しいか?」とか、昼食は何がいいかといった、決まりきったことを質問していったけれど、彼のその様子を見る限りにおいては、とても何かの術にあたしのことをかけたのだとは思えなかった。
 けれど、二度、三度、五度、六度と同じように口ではとても言えような淫らな夢を見る過程で――あたしはだんだんと大胆な行動をとるようになっていった。
 夢の中のウルキオラさんはとても優しくて、あたしのことを「可愛い」とか「綺麗」とか、「愛している」とか……現実ではおよそ彼が言うとは思えない言葉の数々を、いつも当たり前のように言ってくれた。
 でも現実のウルキオラさんはいつまでたっても、冷たい硬質な態度のままで――次第にあたしは、その埋めようのないギャップに苦しみさえ覚えるようになっていたのだった。
 本当には指一本も触れていない関係でありながら、夢ではあんなにも心も肉体も固く結ばれていて……あたしは内心、ウルキオラさんが同じ夢を見ているわけではないにしても、彼が自分に対して秘めた想いを持っているのではないかと、あやしい妄想さえ抱くようになっていたといっていいかもしれない。
 だから、今朝夢のことを聞かれて激しく動揺したのも本当だけれど、それでいてどこかほっとしたような気持ちにもなっていた。
 なんという淫らな女だと、軽蔑するなら、いっそのこと早くそうされてしまいたかった。
 これまでにも何度か、ウルキオラさんに何気なく自分のほうから触れてみようとしたことはあったけれど――でもその度に彼は、あたしから身体的に距離をとったり、何気なく部屋からでていってしまってばかりいた。
(やっぱり、あれはただの、夢の中だけの出来事なの?)
 そう思うと、なんだかとても悲しかった。
 夢の中ではウルキオラさんはいつも、激しくあたしのことを求めてくれる……それこそ、身の心も。
 でも現実の彼は全然そうじゃないということが――あたしは悲しくて仕方なかった。
 そしてその日の夜、あたしはここウェコムンドへ来て初めて、眠るのが怖いように感じていた。
 今までは眠ることはとても楽しいことだった。目を閉じればいつも、心地好い眠気に誘われて、気づけばいつも、ウルキオラさんがいて優しく抱いてくれた。
 彼が自分の体のどこに何をしたか、その記憶を甦らせようとしただけでも――あたしは口の中が唾で満たされ、足の間が熱く濡れてしまうのを感じる。
 でも現実の本当のウルキオラさんの前で、夢の中でのように振るまう勇気は、とてもなくて……あたしはどうしたらいいのかわからないまま、その日の夜、虚圏へきてから初めて泣きながら眠りについていた。

 次に目が覚めた時、ベッドの縁に腰かけるような形で、ウルキオラさんがあたしの顔を覗きこんでいた。
「どうした、何故泣いている、女……」
 その声は、夢の中でいつも彼が優しくしてくれる時とまったく同じ調子のもので――あたしはたぶん自分が、また夢の中にいるのだろうと、そう信じて疑いもしなかった。
「あ、あたし、あたしね……ウルキオラさんのことがとっても好きなの。でも、ウルキオラさんが優しいのって、夢の中でだけだから――もう、こんなことはやめにしなくちゃって、そう思ったの。だけどそのためには、本当のウルキオラさんに全部話さなくちゃいけなくて……でもそんなことしたらきっと、軽蔑されちゃうと思うし……」
「俺がおまえのことを軽蔑する、だと?」
 ――何故だ?
 そう問いかけるように、ウルキオラさんはあたしの顔に残る涙のあとを、そっとなぞるように手で触れていた。
 あたしはいつものその彼の指の感触にほっと安堵する。
(よかった、いつものとおりのウルキオラさんで……)
 あたしはやっぱりこれは絶対夢なのだと思って、色々なことを安心して彼に話すことが出来ると思った。
「えっとね、夢の中だけでこんなに妄想をたくましくしてウルキオラさんとえっち☆なことばっかりいっぱいしてるなんて知られたら――たぶんきっともう二度と口を聞いてもらえないと思うの。夢の中のウルキオラさんは優しいけど、現実のウルキオラさんは、あたしに触れられるのも嫌みたい。だからきっと本当は人間の女なんて嫌いなんだけど、触るのも汚らわしいと思ってるんだけど、仕事だから仕方なく色々お世話をしてくれてて……」
「俺が、おまえのことを汚らわしいだと?」
 あたしは枕をぎゅっと胸に抱きしめて、また泣きそうになりながら説明を続けた。
「うん……だってウルキオラさん、あたしが何気なく腕に手をかけようとしただけでも――すぐに顔を逸らすんだもの。あのね、あたしもしかしたらああいうえっち☆な夢を見るのはウルキオラさんがそういう気持ちをあたしに持ってるせいかもしれないって、少しだけ自惚れてたの。でも、なんだかそうじゃないみたい……」
「……………」
 ひっく、ひっくとしゃくりあげて涙を流す間、ウルキオラさんはあたしのことを胸の上で抱いてくれていた。
 すると不意に、泣きやんだ頃を見計らって、ぐいっと彼があたしの顎を持ち上げる。
「むしろ、今度は逆に俺から聞こう。井上織姫、おまえは――俺のことを汚らわしいとは思わないのか?軽蔑したりはしないのか?」
「どうして?ウルキオラさんはいつだって優しくて、あたしにとてもよくしてくれるのに……」
 ――そうか。
 ウルキオラさんはそういう形に唇を動かしたかと思うと、あたしにいつものようにどこか強引にキスした。
 そしてベッドの上に押し倒され、なすがままの姿勢をとらされる……彼は何故か最初の時のようにどこかぎこちなくあたしの体に触れると、壊れものでも扱うように、優しくそっと何度も体の輪郭を撫でていた。
 まるでその、実在を確かめようとでもするかのように。
(ウルキ、オラさん?)
 あたしはその時、少しだけ違和感のようなものを感じたけれど、それも束の間のことだった。
 彼にはもう――あたしの弱いところは全部わかってしまっている。
 首筋とか、胸の下や太ももに一番感じる線があると知っていて、そこばかりをいつも執拗に攻められる。
 だから、あたしはこの時もやっぱりこれはいつも見るのと同じ夢なのだと、信じて違いもしなかった。
 でも、最後に……。
「織姫、俺を感じるか?」
 ウルキオラさんが中に入ってきた時、あたしの手首を押さえつけたままでそう聞いた。
 早く動かして欲しくて、いつものあたしなら、焦らされることに耐えられなかったかもしれない。
 でもこの時に、はっきりといつもとは何かが違うと、すぐにわかってしまったの。
「か、感じちゃうっ!とても強くウルキオラさんのこと……っ!!だってあたしはあなたのことが……!!」
 ――どうしようもなく、好きなの。
 そう言葉にしなくても、ウルキオラさんにはわかったみたいだった。
 それで、「そうか」と一言口にして、あたしが壊れてしまうくらい激しく、何度もご褒美をくれた。
 彼が淫らに乱れるあたしのことを見る翡翠色の瞳は――いつも一定で揺らぐことがない。
 でも最後の一瞬には、微かに息が乱れていつもとは違うウルキオラさんを見ることが出来る。
 そしてあたしはその瞬間のウルキオラさんのことが、たぶん一番好きだった。
(愛してる)
 隣に倒れこんだ彼が、そう耳元で囁いてくれたような気がしたけれど、あたしはその時には半ばもう、意識を手放していた。

 朝、目が覚めてみると、横にウルキオラさんが眠っていて、本当にびっくりした。
(えっと……夢、じゃない?)
 見ると、裸のウルキオラさんと同じく、あたしも服を着ていなくて……。
「ええ!?これって一体どういう……!!」
 あたしは混乱するあまり、思わず声にだしてそう言ってしまっていた。
「なんだ?騒ぐな……鬱陶しい」
 ウルキオラさんは寝言のようにボソリと呟くと、またころりと寝返りを打って、そのまま睡眠を続けている。
(あ、ウルキオラさんの寝顔、存外可愛いかも………)
 あたしがそんなことを思いつつ、ウルキオラさんのことを見下ろしていると、不意に彼は何かに気づいたようにがばりと身を起こしていた。
「女……ここはおまえの部屋か?」
 恥かしさから、あたしはシーツで体を隠しつつ、顔を真っ赤にして何度もこくこく頷いた。
「なんにしても、早く着替えろ。そろそろ朝食を運びにワイゼンベルクがやって来る頃合だろうからな」
 こんなところを部下に見られたのでは示しがつかないとでも思ったのかどうか――ウルキオラさんもまた、素早く袴を身に着けて、上着の袖に手を通している(ちなみにワイゼンベルクさんというのは、あたしにいつも食事を運んだり給仕したりしてくれる、ホロウさんのお前なのです☆)。
「えっと、もう行っちゃうの?」
 カツ、と踵を返して部屋を出ていこうとするウルキオラさんに向かって、あたしはそう聞いた。
 すると、すぐにウルキオラさんが振り返って、
「俺に、いて欲しいのか、女」
 いつものように淡々とした口調で、そう答える。
「あたし――これがもし夢じゃないなら、もう覚めてほしくない。ウルキオラさんがそばにさえいてくれたら、あたし、他に欲しいものなんて何もないものっ!!」
 あたしがありったけの勇気を振り絞ってそう言うと、ウルキオラさんがあたしの瞳の中を探るように、視線をじっと固定してくる……それであたしも同じくらい強く、必死に訴えかけるみたいに、彼のことを見返していた。
「仕方がないな。これも惚れた弱味というやつなのだろう。井上織姫、おまえが俺にそばにいて欲しいというのなら、そうしてやる」
「本当に!?」
 その日の朝食は、ベーコンエッグにフルーツサラダ、ワッフルにベーグルにフレンチトースト、ソーセージ、ハッシュドポテト、チョコレート味のコーンフレーク、オレンジジュースにカフェオレなどだった。
 ワイゼンベルクさんはいつもどおり、ただ無言でワゴンを部屋に運び入れると、ウルキオラさんに「下がれ」と言われて、そのまま黙って去っていった。
「わ~、今日も朝から美味しそう~!!」
 あたしがひとりほくほく喜びながら食事をしていると、その様子を隣で見ていたウルキオラさんが、ワッフルのクリームのついたあたしのほっぺを、ぺろりと横からなめてくる。
「美味しいか、女」
「うん、とっても!!」
 あたしがそう答えると、何故かウルキオラさんも微かに笑ってくれて――そのことがあたしはとても嬉しかったの。
 これまであたしが見ていた夢がどうこうとか、もう説明する必要は一切なかったみたい。
 だって、ウルキオラさんがあたしを見る目がとても優しくて、それだけでも自分が「愛されてる」っていうことが、今のあたしにはよくわかっていたから……。


       ウルキオラ:

『あの人間の女も、まったく大したものだな。
 まさか破面のおまえのことを、こうも手玉にとろうとは……』
「うるさい」と、俺は蓮の花がいくつも花開く、己の精神世界で、スイレンに向かってそう言った。
「第一、最初にこれを仕掛けたのはおまえのほうだろう?そもそもおまえは一体どういう了見で……」
 スイレンはいつものとおり、豊満な胸を惜しげもなくさらし、くびれた腰に手をあてると、少しばかり気どった調子で、透明な水面に漣(さざなみ)を立てながら歩いてくる。
『あの娘にあって、わたしにないもの……
 それはまあ、処女の娘に特有の恥じらいのようなものかもしれぬな。
 おまえは何度わたしのことを抱こうと、本当の意味では決して満足することはなかった……。
 そのことはよくわかっている。
 だがまあ、わたしはただ生娘を弄んでやろうと思って、今回のことを画策したわけではない。
 そのことはウルキオラ、おまえにもわかっておるだろうな?』
「無論だ。それであればこそ、スイレン、おまえが何故こんなことをしようとしたのか、その理由を聞いている」
 そうなのだ――あくまでもスイレンは俺の斬魄刀であり、俺自身の一部として切り離せぬ存在だった。
 そして俺が理由なくば決して動くことはないように、スイレンもまたまったく同じ性格をしていることを、俺はよく知り抜いていたといっていい。
『理由は、これだ』
 スイレンが片手を上げると、透明な水面がさざ波立って、空中にスクリーンのように映像を映しだしはじめる。
「これは……!?」
 井上織姫にはまだ見せたことのない、俺の第二階層の解放姿がそこには映っていた。そして血を流して戦う俺のことを庇うように、女が敵の攻撃から俺自身のことを防御しようとしている。
 以前に自分が死ぬ瞬間をスイレンに見せられた時には、相手の敵がどのような存在なのかが、はっきりとはわかっていなかった。だが、今見るあの禍々しい男の姿は……。
(もしかしてあれは、黒崎一護なのか?)
 俺がそう思った時、ピシャリと音を立てて、透明な水の幕はまた静かな水面へと帰していた。
『おまえが灰となって消える最後……
 その未来の映像が、もしかしたらこれで変わるかもしれぬ。
 あの黒崎一護とかいう死神に、底知れぬ力が眠っているように――
 井上織姫というあの人間の娘にもまた、まだ目覚めていない潜在能力があるようだからな。
 ウルキオラ、老婆心から忠告するが、次にあの死神に会ったら、手加減などせずに一撃でとどめを刺せ。
 わかったな?』
「なるほど、そういうことか……」
 これで、スイレンが何故わざわざ井上織姫のことを肉体の奴隷とし、俺に鎖で繋いでよこそうとしたのかが、わかろうというものだった。
 このままいけばおそらくは俺は――己の潜在能力に最大限目覚めた黒崎一護に倒される、その未来を変えるために、スイレンはあのようなことを仕組んだということだ。
『わたしは初めておまえと会った時に言ったはずだぞ。
 わたしはおまえを愛している……だからただ無意味に死なせたくなどない。
 そしてそのことを絶対に忘れるな、とな』
 ――己の精神世界からハッと目覚めてみると、俺は自宮の自分の部屋にいた。
(愛、か)
 俺は、自分の斬魄刀を再び鞘におさめると、スイレンの言った言葉の意味が、この時初めて理解できたような気がしていた。
 確かに、俺自身が死ねばスイレンもまた消滅する運命にある……だがそれは一種のギブアンドテイクといった虚しい関係性ではない。
 スイレンは――そのことを井上織姫を通して、俺に教えたかったのだ。
(だがまさか、俺があの女に守られる立場になろうとはな……)
 スイレンが見せた未来の映像は、100%絶対にそうなると決定しているものではない。
 不確定要素の中から確実なものを撚り合わせて、彼女は未来に起きることを映像として織りこみ、予知しているに過ぎないのだ。
 そしてそれならば、と俺はまた自分の愛する女の部屋へ足を向けながら考える。
 井上織姫のことだけは、この先何があろうとも、絶対にこの俺の手で守ってみせる、と。
 たとえ、この命と引き換えにしてでも――………。
 もちろん、あの変わり果てた姿の存在と化した黒崎一護が、本来なら仲間である井上織姫を攻撃する状況というのがどういうものなのか、俺には皆目見当もつかない。
 それでも、自分が第二階層の解放姿を見せている時点で、あの死神が相当な強さを秘めていることだけははっきりとわかった。
(俺は、おまえのためになら、もう死んでもかまわない)
 スイレンが井上織姫を通して俺に与えようとしたもの――そこに生きる意味と目的がすべて、まるで一冊の本のように書いてあることを、俺はすでに知ってしまった。
 魂魄としての肉体にはまだ、空虚な穴があいていようとも、すでに<心>というものがなんなのか、俺には理解できていた。<心>というものは……いってみれば愛の別名なのだろう、などということを、女の前で決して口にすることはなかったにしても、だ。



 終わり






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