探偵L~人狼伝説殺人事件~(18)<後篇>

 さて、後篇はまた『赤毛のアン』の作者モンゴメリのことについて書きたいと思います♪
 今回は、モンゴメリの書いた作品の中でも、お薦めな一冊を紹介しようかなと思ったり(^^)
『赤毛のアン』と『大草原の小さな家』シリーズの両方が好きっていう方は結構多いと思うんですけど――今回紹介するモンゴメリの作品『青い城』の訳者であられる谷口由美子さんは、『大草原の小さな家』シリーズも訳されてますし、その他『大草原のローラ』に関する著作には、たくさん名前のでてこられる方なので、ファンの方だったらまず名前を知らないってことないんじゃないかなって思うんですよね(^^)
 わたしが谷口由美子さんの名前を知ったのは、『大草原のローラに会いに~「小さな家」を巡る旅~』(谷口由美子さん著/求龍堂刊)っていう本によって、でした。そしてこの本の中に、谷口由美子さんがモンゴメリの『青い城』を訳する経緯についても書かれていて、当時は飛び上がらんばかりに喜んで読んだものでした。
 モンゴメリって『赤毛のアン』のみによって知られる作者……っていうイメージがあまりに強いので、他にも作品書いてるけど、たぶん『赤毛のアン』ほどには面白くないから、他の小説はあまり評価されていないのだろうって思う方、もしかしたら多いかもしれません。
 ところがところが、わたし自身はモンゴメリの作品の一番のお気に入りはパット・シリーズですし、ファンの方の間ではアンよりも(エミリーシリーズの☆)エミリーが好きという方や、モンゴメリ作品のまったく別の作品のほうがアンシリーズより好きだという方が結構いらっしゃいます。わたしの場合はアンもエミリーもパットもみんな大好きなんですけど――強いていえばパットが一番好きかなって思うんですよね(^^;)
 そしてこの『青い城』も、現代の女性が読んだとすれば、ややハー○クィン☆チックに思われるかもしれないんですけど(笑)、やっぱりモンゴメリの文章ってユーモアやひねりが利いてて、とても面白いと思うんです。
 ちなみに内容はこんな感じ。。。
 
青い城 (角川文庫)
角川グループパブリッシング
モンゴメリ

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(密林さんのストーリー紹介文より☆)
 内気で陰気でみっともない独身女、ヴァランシー。そんな彼女に以前受診していた医者から手紙が届く。そこには彼女の心臓が危機的状況にあり、余命1年と書かれていた……。悔いのない人生を送ろうと決意した彼女がとった、とんでもない行動とは!?ピリッと辛口のユーモアで彩られた、周到な伏線とどんでん返し。すべての夢見る女性に贈る、心温まる究極のハッピー・エンディング・ストーリー。

 ちなみに、タイトルの青い城っていうのは空想の城っていう意味で――すべての女性は心の中に青い城を持ってると思うんですよね(^^;)言いたいことをすべて自分の心の内に封じこめて、まわりの人たちの言うなりになっていたヴァランシーが、自分の余命がいくばくもないことを知り、ある日思いきった大胆な行動にでるんです(笑)彼女の相手役となる男性も、『赤毛のアン』のギルバートより身近に感じられる気がして、自分的に好感を持って読みました♪(もちろんギルバートも大好きなんですけど、いわゆるギルバートみたいな男と結婚したい症候群にはかかってないので^^;)
 モンゴメリって『赤毛のアン』が有名すぎるあまり、他の作品にスポットライトがあたることが少ないと思うんですけど、この物語は隠れた名作(?)としてなかなかお薦めだと思ったり……アン以外の作品を先に読んで、モンゴメリを好きになる方っていうのは実際少ないと思うんですけど――モンゴメリを知る一冊として、『青い城』はそう悪くない小説なんじゃないかなって思います♪
 あと、訳者の谷口由美子さんの本としては、『ローラ&ローズ~大草原の小さな家・母と娘の物語』(NHK出版)や『大草原のローラ――90年間の輝く日々』(講談社)や『大草原の小さな家――ローラのふるさとを訪ねて』(求龍堂)といった本とか、本当に色々読ませていただきました(^^)
 この『青い城』も、当時は訳者として今のように有名でなかった谷口由美子さんが、まず真っ先に「面白い!!」と感じ、出版社の方に掛け合ったりしてくださったからこそ、その二十年後くらいにわたし自身が手にとって読むことになったと思うと、感謝してもしきれないくらいです。以来、谷口由美子さんのお名前を図書館などで見かけるたびに、「この本はきっと面白いに違いない」と思い、ニヤリ☆とするようになったものでした(笑)
 さてさて、それでは最後にまた、『赤毛のアン』の動画を貼って終わりにしたいと思います♪


 ↓『赤毛のアン』第14話「教室騒動」。っていうか、ギルバート・ブライス登場の巻っていう感じかも(笑)

 ↓『赤毛のアン』全体を通しても、1位2位を争う(?)名シーン、「アン、石版でギルバートの頭を叩き割る」。

 ↓フィリップ先生からまたも侮辱されたと感じ、学校へ行くことをやめるアン。マリラは最初、アンの言い分を「馬鹿らしい!」と一笑に付しますが、こんな時どうすればいいかとリンド夫人に相談します。すると、リンド夫人は「暫く放っておいてあげたらどうかね?」とアドバイス。マリラは驚きつつも、彼女が言ったとおり実行することにしますが……!?



 アンが学校に通っていたのは、今から100年以上も前のこと。でもこのあたりのエピソードは今もまったく似たようなことってありますよね(^^;)そしてアンがギルバートに対して「卑怯者っ!!大っ嫌い!!」と最初の一声を発してから、ギルはこのあと何度も彼女に対してあやまるのです。ところが、何がどうあっても絶対に許そうとしないアンの態度は、「You are Sweet(あなたは優しい・可愛い・綺麗・素敵)」と書かれたキャンディを踏み潰したことからしても、まったくもって徹底しています(笑)
 でもギルとアンはこれから、学校の成績で1位2位を争う好敵手となり、お互いまったく口を聞かないという間柄ながらも、それとなく意識し続けるという関係が続くんですよね(^^)そして物語の最後のほうでは、これまで意地を張ってたことを「なんてお馬鹿さんだったのかしら」と、ギルに告白するアン……アンはともかくとしても、ギルバートはすでにこの頃からアンに恋をしていたものと思われます(笑)
 モンゴメリの書くお話って、多くが一方的に男のほうが主人公の女の子に入れ上げるっていうパターンが多いと思うんですけど――ギルはアンが他の男とつきあうようになっても、さらに忍耐強く待つんですよね。でもモンゴメリの日記や伝記などを読んでいると、これはほとんど彼女の実体験から来ていることがわかります。モード(モンゴメリ)は向こうのことをなんとも思ってないのに、あるいはずっとこのままいい友達でいたいと思ってるのに――それをボーイフレンドのほうが壊そうとしてきたり、マスタード先生(モンゴメリが通っていた学校の先生)が、彼女に対して強い恋心を持っていることを迷惑がったり……アンとギルが本当の意味で結ばれる『アンの愛情』は、「う~ん。ギルみたいないい男って実在するものかなあ☆」と十代のわたしが読んでても思ったものですが(^^;)、モンゴメリの生きた時代にはロマンスといったものが本当の意味で生きていて、ギルバートみたいな男の子って本当にいたんだろうなっていうふうに思います♪
 ↑に貼ってあるのは、ようつべの動画なんですけど、Veohなどには全話収録してあって、そっちのほうが見やすいんじゃないかって思うんですよね(^^;)ちょっと久しぶりに見たら、また新たにハマってきたので(笑)、同じような方がもしいたら、そちらでの視聴を是非お薦めします♪
 それではまた~!!(^^)/



       探偵L~人狼伝説殺人事件~(18)<後篇>

「流石のわたしも、ここまでのことを調べるのは、なかなか骨が折れました……でも大抵のことは、ヴォーモン氏が建設費用を出資した、村の図書館で調べのつくことばかりではありましたが。一体何が大変といって――ほとんどきちんと分類されていない古文書や文献を年代ごとに分けて調べあげるのが、一番大変といえば大変だったかもしれません。あの図書館にいる司書は誰が雇ったのか知りませんが、非常に怠慢でろくに仕事をしようとしなかったんですから……(ブツブツ)……まあ、それはそれとしても、ヴォーモン氏はようするに、生前からずっと一貫してこう言いたかったわけです。トマス・オフェイロンの血を引く自分こそが、本当はこの村の長たるに相応しいのだとね。そして村の人間は自分のことをエドワード・オフェイロンの妾腹の子として軽蔑しているが――本当の事実よりも、この村ではそうした噂話のほうが力を持っていますから――もし仮にそうだとしても、<お手つき>の子孫は他にもたくさん存在するのだと、彼は証明したかったんですよ。図書館の多くの文献に目を通していると、本の見開きに<寄贈>と判の押された横に、ことごとくヴォーモン氏の名が刻印されているのにはいささか笑ってしまいましたが――彼はそのくらい執念深くこの村一帯に関する資料を蒐集して歩いていたんですね。そして自分が膵臓ガンで死んだあと、ある意味どこにもない金塊を探す過程で――この村の人たちが隠してきた、暗い歴史の影に埋もれた血の系譜が明らかになればいいと考えていたんです。それこそが彼にとって、村ののけ者にした人間たちへの、最大の復讐だったというわけなんですよ」
「やれやれ、エルバート・ワイミーさん。あんたは大した探偵さんだよ、まったく」
 ジョン・ロックウェルが、すっかり感服したといったように、帽子を脱ぎながら天を仰いでいる。
「それで、これから一体どうするんだね?俺はアイズナー博士とアデルお嬢さんのことは、確かに気の毒だとは思うがな……それでもやはり、犯した罪については償わなきゃなるまいよ。この村の呪われた歴史に終止符を打つためにもな」
「ええ……ですが最後にもうひとつ、わたしは九年前にこの村で起きた惨殺事件についても、言及しなくてはなりません」
 Lがそのことを口にした途端――村の男たちの間に、電流にも似た、ピリッとしたような緊張のオーラが走る。
「ロム・キルヒューレンの母親のレオナ・キルヒューレンは実は、彼の本当の母親ではありませんでした……では一体誰の子かということですが、ロムはレオナの友人の、アリシア・バルナディンの子供なのだと思います。レオナとアリシアは、ダブリンで娼婦として働いていて――アリシアは子供を出産後、亡くなる前に彼女に自分の赤ん坊を託していたんですね。レオナはダブリンを離れると、ここロスファイエ村へやって来て、おそらく父親である男性に認知するよう求めたのでしょう……もしただの一夜の遊びといった関係であったのであれば、レオナさんもそこまでのことはしなかったでしょうが、むしろ自分の親友とロムの父親との結びつきに非常に親密な関係性があったからこそ――レオナさんは自分にとって縁もゆかりもない土地までやってきて、ロムのことを認知してほしいと頼んだに違いありません。何分、こんな小さな村のことですから、森の中の掘っ立て小屋に貧しい母子が住んでいるということは、すぐに知れ渡ったことでしょうね……もちろん、認知することを拒否した父親=レオナを殺した犯人と決めつけるのはいささか早計であるかもしれませんが――わたしが勝手に色々な証拠品を収集して調べた結果としては、その可能性がもっとも高いようだと断定されました。そのロムの父親というのは、ジャック・マーフィ村長の息子のパトリック・マーフィでしょう」
「一体、何を根拠にあんたはそんなことを……っ。村長の息子さんが人殺しなんかするわけなかろうがっ。第一、パトリックさんはダブリンの大学を卒業されてからは、今はアメリカに渡って事業を成功させている立派な方なんだぞっ。そんな人のことを捕まえて、よりにもよってあんたは……っ」
 スティーヴ・マクナマラは、ライフルを握る手を震わせながら、口角に泡を飛ばしてそう一気にまくしたてた。その様子は今にも、岩の上にいるLに対して掴みかからんばかりだったが――マーフィ村長はどこか冷厳な顔つきをして彼のことを制すると、今度はふっと穏やかな表情になって、マクナマラに対して首を振っていた。まるで、もはや隠し立ては無用だ、とでもいうように。
「エルバートさん、あんたが村中の家を一軒一軒まわって、何かを探りだそうとしてるらしいってことは、わたしらにも随分前からわかっとった……ワイミーさん、これまで聞いていた話から察するに、あなたは慎重に行動して確実な裏付けと証拠固めをしてからでなければ――絶対に口を開いたりはされない人だということがよくわかる。そのあなたがわたしの息子が犯人だと言うからには、相応の証拠がすでに揃っていると、そう理解してよろしいのでしょうな」
「ええ……」
 Lは槲の樹の下に警官姿で立っている、マーフィ村長の次男、マーク・マーフィのほうをちらと一瞬見やった。
 彼はまるで昼行灯といった感じのする警官ではあったが――その顔の表情から推し量るに、自分がまさかと思っていたことが、実は本当だったということを今知ったらしいということがはっきりとわかった。
「わたしは村中のひとつひとつの家庭に入らせてもらった時に、それぞれのDNAを採取させてもらっていました。大抵は床に落ちている毛髪などでしたが――ロムのDNAのアレルと血縁としてもっとも可能性の高いものは、マーフィ一族のものだったんです。その中で、アリシア・バルナディンが妊娠する前にダブリンを訪れていた可能性のある男性は、当時大学に通っていたマーフィ村長の長男のパトリックさんでした。しかしながら、認知を拒否するのならそれ相応のお金を渡すなどして問題を解決すればいいのであって――何もあんなにひどい殺し方もしなくてもよかったでしょうね。普通、ついカッとなって相手を刺してしまった場合は、最初の一撃でハッと我に返るものです……しかもレオナさんには暴行されたあとまであった。この話の中で一番不思議なのは、当時五歳だったロムくんが「お母さんは狼に似た恐ろしい化物に殺された」と証言していることです。ここまでくれば、馬鹿でももうわかりますね?そうです――村長の息子のパトリック・マーフィはこともあろうに、聖狼の洞窟にある、狼の仮面や毛皮の衣装を身にまとって、レオナさんに襲いかかったんですよ。幼いロムくんにも本当は、相手が人間であることはわかったでしょう……しかしながら、目にした光景があまりに凄惨なものだったため、彼の中でおそらくは記憶のすり替えが起こったんだと思います。あんな恐ろしいことをするのは人間なんかじゃない、人間であるはずがない、きっとオオカミだ、いやオオカミに似たよくわからない化物だ……といったふうにね。結局のところ、この事件は犯人が捕まらずじまいで迷宮入りとなったわけですが、実際レオナさんはとても美しい人でもありましたから――言いよる男には事欠かなかったのでしょう。森の小屋からは複数の男性のDNAが検出され、そのひとりひとりが取り調べられましたが、そのどれもが犯人逮捕の決め手には欠ける物証ばかりだったんですよ。アリバイなどと言っても、こんな田舎の小さな村では、家族とか親しい友人とか親戚とか――客観的信憑性に欠ける人物の証言があまりにも多すぎたんです。しかしながらその後、パトリック・マーフィがアメリカへ渡って一度もここアイルランドの故郷の地を踏んでいないところを見ると、やはり彼が犯人だったのではないかという気が、わたしはしてなりません」
「じゃあ、あんたが手にしている証拠ってのは、パトリックがロムの父親らしいっていうことだけで、パトリックがレオナ・キルヒューレンを殺した確たる証拠ってわけじゃないんだな?」
「ええ、そうです」
 スティーヴ・マクナマラの激しく追及するような物言いに、Lは微かに笑いたくなった。何故なら、実は彼こそがレオナ・キルヒューレン殺害の夜に、パトリック・マーフィのアリバイを証言した張本人だったからだ。
「わたしがこの件について言えるのは、たったのそれだけです……このことをもう一度よく調べるよういくら警察に訴えたところで、おそらくは動いてもらえないでしょうね。何より、わたしがヴォーモン氏殺害をはじめとする一連の事件解決の過程において――何よりもっとも役に立ったのが、ロムくんの話してくれたことでした。彼は九年前に自分の母親を殺したのはオオカミ人間だが、ヴォーモン氏を殺したのは<オオカミではなく人間だ>とわかっていたんです……聖狼の滝の洞窟まで案内してくれたのも彼ですし、ロムくんが何故その時中へ入りたがらなかったのかも、今ならよくわかります。彼には我々文明社会に生きる人間が失ってしまった、野性の勘のようなものが今も生きて働いているんですよ。彼は、記憶の洞窟の奥にあるものを発見するのが、おそらくはその時とても怖かったんだと思います……村の人たちがその洞窟を神聖な場所として崇めていたこととも関係しているんでしょうが、彼がもしもう一度あの狼の仮面と毛皮の衣装を見たらどうなってしまうのか、それはわたしにもわかりません。しかしながら、彼が長年何故森の中で半野生児として暮らしてきたかについては、ある程度理解が出来るんです。彼は村のどこかに自分の母親を殺した犯人がいると無意識的に思っていたんですよ。だから誰が何を言おうと、優しい母親の記憶や思い出の残る唯一の場所を離れようとはしなかったのかもしれません。アイズナー博士が一緒に暮らそうと言った時にノーと言い、わたしが同じことを言った時には素直に従ったのも――いうなれば彼独特の一種の勘です。それにあの子にはどこか、いい人間と悪い人間を一瞬にして見分けることの出来る天分があるみたいですからね」
「ロムのことは、わたし自身、ずっとすまなく思ってきました……」
 ジャック・マーフィは深い溜息を着くと、この一夜にして十も老けたというような顔つきをして、突きでた岩のひとつによりかかりながら言った。精神的にとても疲れている様子なのが、その表情からはありありと窺われる。
「いえ、この際ですからもはや、綺麗ごとはよしましょう。わたしはいつも、あの子が自分の目の前から消えるか、あるいは重い病気にでもかかって死んでくれればいいと、そう願っていました。もしパトリックが、レオナ・キルヒューレンを殺害する前に――あの女の連れている子供は自分の息子だと打ち明けてさえくれていたら……わたし自身にも、自分の家にあの子を迎え入れることにさして抵抗はなかったでしょう。息子の不始末を親が受け容れるというのは、世間ではよくあることですからな。しかしながら、認知を迫る女性に対して、執拗にそう迫られたからというのでなしに――ただ一時的な快楽を得るのを目的に、その相手を殺してしまった後というのでは、まったく話が別です。レオナ・キルヒューレンという女性は、実際はとても身持ちの固い女の人で――もし本当にダブリンで娼婦をしていたというのなら、それにはそうせざるを得ない何がしかの事情があったのだろうと感じられるような、そういった厳かな雰囲気のある女性でした。これはあとから村の若い男たちに聞いた話ですが、彼女はどの男から結婚を迫られても言い寄られても、それを頑として跳ねつけていたそうなんですね。それをパトリックは何か悪いほうに嫉妬し、揚げ句の果てには――あんな事件を起こしてしまったんです」
「村長……」
 スティーブ・マクナマラが、カンテラを片手に持ったまま、どこか厳かにたしなめるような口調で、彼が心から尊敬する人間に一歩、にじり寄っている。
「いや、もういいんだ、スティーブ。あの時は本当に世話になったな……だがあの時捕まっていたほうが、うちの馬鹿息子にとっては良かったのかもしれん。わたしはただ、息子の罪を覆い隠したかったというのではなしに――わたしらの先祖が代々守ってきた聖なる場所を荒らされるのが嫌だったんですよ、ワイミーさん。息子が凶行に及んだ時に身に着けていた狼の仮面や衣装……それをどういった経緯でどこから手に入れたのかを息子が警察に話せば――当然、あの場所は警察やら鑑識の人間やらに踏み荒らされて、歴史的な大発見と同時に、息子の恥ずべき行為についても、永久に人々の記憶に残ることとなるでしょう。わたしは何よりそのことが恐ろしかったんです……ですがワイミーさん、まったく遺伝というのは不可思議なものですな。わたしのマーフィの家系もそうだが、ここにいる村の多くの人間が――実際には、エドワード・オフェイロンの血を引く者ばかりなんですよ。そしてわたしらが<オフェイロン的>と陰でこっそり呼んでいるある特徴……それは、わたしらの間でも時に色濃く表れるものなんです。極めて利己的で、己の欲望に思うままに忠実であり、金銭や女性といったものに飽くことがなく、他人を思いやるよりも自分のことを真っ先に心配するといったような特徴でしてな、それは。エドガー・ヴォーモンは、まさにそのような人間の典型といってよかったでしょう。ところが自分の息子にもまた、そうした呪わしい血が同じように流れていると知った時には――わたしはもう、どうしてよいかわかりませんでした。息子は立派で風采がよく、今は事業にも成功していますが、それは息子がある意味極めて<オフェイロン的>だからなのですよ。先ほど、アイズナー博士が堕胎費用といったことを話された時には、わたしはまるで、自分自身の不祥事について何か言われているように、心底ぞっとしました。ようするにわたしの長男もまた、エドガー・ヴォーモンと同じ部類の人間だということなんですから……普通にきちんとしつけて育てたつもりなのに――本当に、血が悪かったとしか言いようのない人間に、パトリックは育ってしまいました。それに比べたらロムは、我が孫ながら立派に成長したものだと思います。あの年になるまで、なんとかひとりで自活して暮らそうと努力していたのですから……わたしはそのことについてもワイミーさん、あなたには礼を言わねばなりません。わたし自身にも本当は、あの子を引きとりたいと思う気持ちはずっとあったんです。ただそうすれば、パトリックの過去の罪と結びつけて考えられるのではないかと怖れるあまり――あの子のことを見て見ぬふりをしてきたんです。村のどこかの婦人が、ロムがじっと自分の家のほうを見て動かないから、追い払うために豆や豚の塩漬け肉を恵んでやったなんていう話を聞くたびに……わたしがどれほど胸の塞がれる苦しい思いをしてきたか、きっと誰にもおわかりいただけないだろうと思っています」
「そうですね。人は誰しも聖人というわけではありませんし――これはわたし自身も含めて、ということですが――ある意味、人間という存在のうちの誰しもが、マーフィ村長のおっしゃった<オフェイロン的>特徴を備えているのだとも思います。そしてこのオフェイロン的特徴を持つ人間には悪魔が味方するのかどうか、人殺しをしても罪を免れたり、汚職事件を起こしても別の人間が捕まったりと、本人の代わりにもっとよい他の人間が苦しむというパターンが成り立っているみたいですね……パトリック・マーフィの現在の資産状況などもわたしは調べさせていただきましたが、彼は金銭的には相当成功しているようです。ですが、それが本当に魂の幸福と呼べるものなのかどうか――わたしは疑問に思いますよ。たとえば、ヴォーモン氏のように最後の最後で「膵臓ガンでもはや手遅れ」と医者から宣告された揚げ句、実の息子と娘に殺される場合だってあるわけですから」
 その場にいた誰もが、自分自身の人生について一瞬思いを馳せたのかどうか――彼らは数分後、ほとんど同時にお互いのことを、何かを確認し合うように見つめあっていた。
 やがて村の男たちは無言で頷きあい、それぞれ何ごともなかったかのように、ひとりひとり静かにその場を後にしだした……彼らはもしかしたら聖書の『罪のない者がまず、この女(罪人)に石を投げよ』という言葉を思いだしていたのかもしれない。
「あ、そういえばこの場所って、携帯の電源が入らないんですよね」
 Lは携帯に<圏外>と表示されているのを見て――ほとんど樹の陰に棒立ちとなっているマーク・マーフィのほうをじっと見つめた。
「一体そこで何をぼんやりしているんですか、マーク・マーフィさん。あなたも警官の端くれなら、こういう時はわたしに協力してください。まずは、殺人事件の容疑者の身柄の確保が第一です。それからロスファイエ・ホテルにいるフェロー警視とコネリー警部に来てくれるよう、誰か適当な人にお願いしてください」
「あ、ああ……」
 突然金縛りが解けたように、マーク・マーフィは一歩歩きだし、そしてカンテラの明かりに煌々と照らされている、妖精の泉の前までやって来た。
 アデル・クライン・ヴォーモンは縛られたままの格好で、後ろにデイヴ・オコナーがついているし――まるですっかり放心してしまった様子のジェフリー・アイズナーの両手には、彼自身の手によって手錠がかけられるということになる。
「ロスファイエ・ホテルへは、わたしが直接行って、フェロー警視とコネリー警部のことを呼んでこよう」
 自分の父親がそう言って、ぽんと肩に手を置くのを、マークはどこか不思議に感じていた……これまで彼は、兄パトリックの存在があまりに偉大すぎて、周囲の人間は誰も自分になど期待していないとばかり思いこんできた。それであればこそ、何かもっと努力をしていい人間になろうとか、兄よりも素晴らしい事業を成し遂げて、村のためになることをしようなどと思ったことが、ただの一度としてなかったのである。
 九年前にあった事件については、マーク自身、よく覚えてはいる……だがダブリンの大学を優秀な成績で卒業した兄が、人から色々もてはやされるのを見るのが嫌で――その頃はちょうど、町のほうにいる従兄弟の家へ入り浸ってばかりいたのだ。
 そのせいかどうか、レオナ・キルヒューレンが殺害された前後に、家の中がどんな様子だったかということが、マークにははっきりと思いだすことが出来ない……いや、家に刑事がやってきて、まるで兄のパトリックが犯人であるかのように、色々と尋問していったことは覚えている。だがマークは自分の兄のことを疑うなど、この刑事たちはまったく気が狂っているとしか思っていなかったのである。
 それなのに……。
「おい、ジェフリー・アイズナー。ここで銃を一発ぶっ放して、てめえを殺してやりたいのは山々だが」
 ふたりの息子を従えた、ルパート・オコノフィの父親が、ふと気づくとマークとジェフリーの後ろに立って、そうがなり声を上げていた。
「拳銃一発だけで殺したんじゃ、てめえの罪に見合う分の苦しみには到底及ばないだろうからな……今は一旦許したような振りをしておいてやる。ポリーの親父やロバート・オーエンは、ショックのあまりかただ黙って帰っちまったが、腹の中じゃ俺たちと同じくやりきれねえ思いで煮えくり返ってるだろうよ。まあ、てめえは間違いなく終身刑になって一生刑務所からは出てこれねえだろうが――もしそこから一歩でも出てきたとしてみろ。その時にはこの俺か息子たちが、地獄の果てまでおまえのことを追っていって、ぶっ殺してやる!!」
 もともといかつい顔つきのルー・オコノフィは、憎しみをその表情にたぎらせると、まさしく凶暴な狼そのものといった面構えになっていた。そしてライフルを構えてジェフリーのこめかみに当て、引き金に手をかけたところで――怒りのあまり震える指をどうにか堪え、ようやくのことで銃身を下ろしたのだった。
「こうした殺人事件の、もっとも不幸な点のひとつは」
 オコノフィ家の男たちが、森の外へ去ろうとしているその後ろ姿を見送りながら、Lは言った。
「一生の間、永遠に消えない憎しみの種が、被害者の遺族の心の中に蒔かれてしまうことです。彼らの心の中に今あるのはおそらく――あなたやアデルさんがヴォーモン氏に対して燃やしていた怒りや憎しみとまったく同質のものでしょう。これからあの人たちはそのやり場のない感情と、一生戦っていかなくてはならないんです。アイズナー博士、あなたは呪われた血の連鎖を、自分の父親を殺すことで断ち切ろうとしたのかもしれませんが……結果はむしろその逆だったということを、どうか心に留めておいてください」
「じゃあ僕は、一体どうすればよかったんでしょうね。一体どうすれば……」
 いっそのこと、ルー・オコノフィの手によってあのまま死にたかったと思いつつ、ジェフリーは涙を流した。
「あなたは、狼の心の声を聴ける人でしょう?それも、彼らの魂の声を……」
 Lは、いずれこの場から運ばれて、ヴォーモン氏やポリー嬢、ルパート・オコノフィの遺体に残る傷と歯型などを比較検証されるだろう、一匹の黒く美しい動物に目をやった。
「犬と狼を交配させると、元の狼よりも体がずっと大きくなる場合があるというのは、専門家の間ではよく知られている事実ですが――あなたはルディの魂に、本当にひどいことをしました。アイズナー博士、あなたはいつだったか、わたしにこうおっしゃっていましたよね?オオカミたちが次々とこの地上で絶滅していったのは、人間が本当のオオカミの姿に気づくことが遅れたために起こった悲劇だと。オオカミといえば、残忍で貪欲で狡賢くて、手に負えない凶暴さの象徴として描かれることが多いけれど――それは本当のオオカミの姿を知らない人間が、己自身の内に眠るそうした心の暗い部分をオオカミという存在に投影しているに過ぎないのだと……あなたはおそらくルディに、自分の心のもっとも奥深くに眠る、そうした感情を投影していたんです。だからこそあなたは、ヴォーモン氏を殺害後も、ルディを処分してしまうことが出来なかったんですよ。“彼を殺すことは、自分の魂を殺すことだった”といったあなたの自白の言葉は、本当にそのとおりだったのだろうと思います」
「ルディ、ごめんね。本当に、ごめん。あたしなんかのことを庇ったばっかりに……」
 アデル・ヴォーモンは、縛られた格好のまま地面に膝をつき、黒い毛並みのルディの体の上に、何度も何度も涙を流している。
「僕はたぶんきっと――これから檻の中へ入って、一生そこから出てこれないでしょうが、それでいいのだろうという気がします。おかしな話のように聞こえるかもしれませんが……僕は物心ついた時から、自分を<人間>だとか<人間の仲間>だというふうに思ったことは、ただの一度もないんですよ。むしろ檻の中で犬たちと一緒にいる時のほうが、ずっと心が休まった……だからきっと、鉄格子の中にいるのが、生まれた時からの僕の運命だったのかもしれません……」
「ジェフリー……」
 アデルは半分血の繋がった、愛する男のことを見上げると、彼の胸の中へ飛びこんで、そこで激しく泣きじゃくっていた。
 やがてフェロー警視とコネリー警部が到着し、ふたりの殺人犯のことを、手順に従って森の外まで連行していったが――Lは警察車輌に特有のサイレン音を遠くに聞きながら、やりきれぬ思いを堪えるように、ルディのことをそっと見下ろしていた。
 鑑識の人間がネルヴィル町からやってくるまでは、Lはここでこうして凶器として使われた動物のことを、見張っていなければならなかったからだ。
「終わったな、探偵さん」
 ジョン・ロックウェルは、ひとりだけルディを見るために残ったLのことを、どこか感じ入ったように見つめながら、その細い肩をぽんと叩いている。
「あんたが五か月くらい前にここへやって来た時には――まさか本当に一連の事件を解決してくれるとは、俺には到底思えなかったんだが、結果はこのとおりといったところだな。いやはや、恐れ入ったよ」
「それというのも、あなたが適切なアドバイスを最初にしてくださったそのお陰ですよ。でなければわたしは、村の人たち全員から総スカンをくって、誰からも相手にされないままだったでしょうから」
「ハハハ。だがやっぱり、そんなことがなくてもワイミーさん、あんたは同じように見事な手並みを披露してくれたんじゃないかと俺は思うがな……ところで、事件が解決した以上、ここへはもうそう長くはいないんだろう?うちの娘たちが寂しがるなあ。三女のジュディなんか、大きくなったらあんたと結婚したいなんて言ってるんだが」
「ああ、そういえばジュディの名前を聞いて思いだしましたが」
 結婚の約束については何も答えず、Lは岩の上にもう一度腰かけると、そこから妖精の泉の中をそっと覗きこんだ。
「なんでも、この泉に満月の光が映っている時に、泉の中へもぐるともう一度でてきたその場所は、妖精の国なのだという伝説があるのだそうですね。今度一緒に試してほしいとジュディには言われていましたが――エルのお兄ちゃんはそんなふうにしていなくなったとでも言っておいてください」
「まあ、俺も東洋人の婿を持てなくて非常に残念だが」と、ジョンは屈託なく笑って言った。「あんたも、あのべっぴんのメイドさんとお幸せにな」
「バレてましたか……」
 ジョン・ロックウェルが馬にのって自分の農場へ戻り、鑑識の人間がこの森の中心部へ到着するまでの間――Lは月夜に輝く妖精の泉の神秘的な水面を、静かにひとり、じっと見つめ続けていた。
 すると遠くからアイズナー博士の飼っているオオカミたちの遠吠えが聞こえてきて、Lはまたなんともいえないやりきれない気持ちに襲われる。そしてLがルディのことを岩の上から見下ろした時……彼が確かに<笑って>いるということが、Lにははっきりとわかった。
 つい先ほどまで彼が浮かべていた苦悶の表情とはまるで違う、それはあまりに安らかなもので――Lには彼がおそらくは、妖精のような何か目に見えぬ存在か、あるいは先に死んで葬られたオオカミの魂が彼のことを迎えにきたに違いないと――ルディは彼らと一緒にどこか別の世界へ旅立っていったのだと、そんなふうに思えてならなかった。



 >>続く……。




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