死よりも深く、君を愛す

 ちょっとタイトル大袈裟かな??と思いつつ、例によって他に思い浮かばなかったので、とりあえずこれで……って思いました(^^;)
 あ、今回のお話はブリーチ40巻、ウルキオラ視点ヴァージョンです
 わりとウルたんって「何考えてるかわかんない☆」とか「なんでここでこういう行動とってるのか理解できない☆」っていう御意見って多いのかなって思ったので……↓のお話は、そういう意味でわたしなりに解釈してみたブリーチ40巻っていう感じでしょうか。。。
 でももちろん、わたしにしても100%まったくこのとおりと思っているわけではまったくなくて(当たり前☆)――全体的なバランスを考えて割愛したところとか、ここは若干orかなり違うんだけど、文章の読みやすいリズムでいくとこんな感じかな??っていうところとか、総体的に考えて↓みたいになったっていうことなんですよね(^^;)
 とにかく書いててめっちゃ!!!楽しかったです~♪
 わたし、デスノのLたんの時でさえ、L視点で①~⑦巻を小説風に書いてみようとは流石に思いませんでしたから(でもそのかわりやったら長い二次小説を書くことになったんですけどね・笑)
 でも今回はウルたんのことが頭から離れなくて離れなくて……それで思わずちょっと書いてみちゃいましたww
 まあ、もう内容わかってることを新たに小説風に書いたってつまんなくね?って思う方のほうが多いだろうとは思ってます。これも他の二次小説と同じく、自分としては自己満足の産物なので――それはそれでいいんですよ(^^;)
 もしどなたかに「うん、そーゆー読みもできるかもね!」くらいに思ってもらえたら、それでわたしとしては満足な感じといいますか……とりあえず登場人物の科白は大体入ってるんで(ウルたんが一人称で語れる範囲内において☆)、もしまだ40巻読んでない方がいらっしゃったら激しくネタバレ☆アリな感じだと思いますんで、その点についてだけご注意くださいね
 あと、テイストとしては、なるべく原作に忠実かつ中立にと思いつつ――結局最後のほうはウル×織です(笑)いえ、途中も軽~中程度ウル×織で、最後のほうが「なんだかんだ言ってやっぱりウル×織」っていう感じで終わるかと思います(^^;)
 ただわたし、40巻の続きって、有難やネタバレ☆サイト様で大体のところさらってるに過ぎないので、40巻の続きまでは書けませんでした。なので、↓のお話も40巻の最後のところで終わってます
 なので10月に41巻が発売になったら――『続・死よりも深く、君を愛す』っていう感じで書いてみようかな、なんて思ったり。。。
 なんにしても、「うんうん、その読みもアリだと思う~」ってどなたに思っていただけたとしたら、クマとしては嬉しい限りです♪
 ではでは、次こそはエロいのって思ってますんで、よろしくです(←何を??)
 それではまた~!!(^^)/



       死よりも深く、君を愛す

   ~The envy~

 虚夜宮(ラス・ノーチェス)の第五の塔、その大広間に剣戟の音が鳴り響いている。

 ――ガッ!!!
 ――ザン!!!
 ――ギィン!!!!

 (存外、いい反応だ、黒崎一護……少しは腕を上げたようだな)

 そう思った瞬間――不意に奴に右手首を掴まれ、ドン!!!と重い一太刀を浴びせられた。

 服が破れ、心臓の位置に生じた掠り傷から、微かに血が滲みでているのがわかる。

「殆ど斬れてねえ……鋼皮(イエロ)ってやつか。やっぱり硬えな。
 けど、どうも前よりてめえの動きは、読めるようになったみてえだ」

「……なんだと?」

「前に戦った時のてめえは、動きがまったく読めなかった。
 攻撃も防御も、反応も速度も方向も……どこからも何も読みとれなかった。まるで機械か石像と戦ってる気分だった……それが読みとれるようになったのは、俺が虚(ホロウ)に近づいたのか、それともてめえがオレ(人間)に近づいたのかもしれねえがな」

(小僧……随分と嘗めた口を聞いてくれる………)  

 そう思った俺は、刀の一閃により、ガン!!!と床を叩き割った。
 もちろん、そのことに深い意味などない。
 内側に漲る霊圧が、一瞬迸ったという、ただそれだけのことだ。

「俺が……おまえら人間に近づいただと?
 成程……」

 ガシャッ、と新たに刀を身構える黒崎一護に対して、俺は奴の身の程をわからせてやろうと、加減していた霊の放出量を少しばかり上げてやった。
 口は災いの元というのは、まさにこのことだ。

「この程度のレベルについて来れるようになった事が、余程気分がいいらしいな」

 俺は奴の真正面から強い一撃を喰らわせてやるべく、カッ、と床を蹴った。
 かろうじてその攻撃をかわした黒崎一護が、「くっ」と叫んで後方に下がる。

 ――だが、奴のその動きというものは、実に俺の予想の範囲内のものだった。
 逃げを打つ時にさえ、なんら奇抜さや斬新さといったものの見られない、緩慢な動き……。
 見切るのに造作もなかった。

 俺は後退した黒崎一護の背後へまわると、軽くフェイントをかけてやることにする。
(しかも、簡単にそれに引っ掛かるあたり、本当におまえは……)

 ……だがこの時、不意に余計な邪魔が入った。
 いや、本当はその<盾>ごと、死神のことを殺すのは容易かった。
 それでも俺はあえてそれをしなかった――何故か。

 俺は自分でもわからないその答えを求めるように、<三天結盾>という盾を張った女のことを――井上織姫のことを振り返っていた。


 ~The Gluttony~

「……何をしている」

 俺は女にそう聞いた。
 かつて一度は、我らが同胞として、自分の心と体は『藍染様の御心のために』あると言ったほどの女……俺はその時の井上織姫の気丈な振るまいには、今でも感心していた。
 だが、今俺の目の前にいる女には、その時の気丈さが微塵も感じられない。

「――え?………」

 黒崎一護という目の前の死神を助けるのが、さも当たり前だとでも言いたげな眼差し。
(だから、貴様ら人間は甘いというんだ……)
 この女には、覚悟というものが足りなすぎる。
 ラス・ノーチェスへ来てからというもの、考える時間ならば虚圏の砂の数ほどもあっただろうに。

「何故助けたと、訊いているんだ」

 俺はそう問いを重ねた。
 女は訊かれたことの意味がわからぬとでも言いたげに、顔の表情を曇らせている。

「何故って、そんなの………」

(言葉にするまでもなく、わかりきったことだとでも言いたいのか、女……ならば、言ってやる)
 俺はそう思い、残酷な言葉を口にのせる覚悟を決めた。

「仲間だからか。それなら何故、最初の一撃から奴を守らない。
 何を躊躇った?」

「そ……そんなこと………」

「解らないか。教えてやろう。おまえは――」

(選べないのだ。黒崎一護という死神のことも、破面である俺たちホロウのことも……俺がおまえの立場ならば、ここウェコムンドへやって来た時点で、どちらかを選び、もう片方を捨てる。その覚悟の甘さが、井上織姫、おまえのことを枷のように縛り、動けなくしているのだと、何故気づかん)

「うるせえよ……」

 斬撃による霊圧の余波から、ふらつくように体勢を立て直した黒崎一護が、不意に横から口を挟む。

「ためらったとか何だとか……下らねえことベラベラしゃべりやがって。どうでもいいんだよ、そんなことは。
 助けてくれてありがとな、井上。
 けど、危ねえから下がっててくれ」

「黒崎くん……」

 ――そのふたりのやりとりによって、俺はふと気づいた。
 女が<心>というものについて言った言葉の意味を。

『相手とまったく同じことを感じるなんて、ありえないかもしれない。
 だけど、相手を大切に想いあって、相手の少し近くに心を置くことはできる。
 心をひとつにするって、きっとそういうこと』

(そうか、女。だったら……)

「ウルキオラ、意外としゃべるんだな、おまえ。もっと無口な奴だと思ってたぜ」

 ガシャッ、と刀を構え直し、再び月牙を放つ体勢に黒崎一護が入るのを見て――俺は奴ら人間が<心>と呼ぶものの脆さ・危うさといったものを、心の底から思い知らせてやりたくなった。
 何より、その<心の繋がり>とかいう愚かしさのことを。

「月牙か。俺には通用しないと、まだわからんか」

 黒い月牙……実際のところ、人間にしては大した霊圧だ。
 そして、月牙を放たずに剣にまとったまま、月牙の威力を持つ斬撃にするという寸法か。
 だが、それだけではまだまだ――……

「甘い」

 ギィン!!!と、黒崎一護の斬撃を弾き返し、俺は中空を舞った。
 霊圧同士がぶつかった時の反発力によって、黒崎一護がザザザ、と体勢を立て直そうとする。

「浅知恵を利かせたつもりらしいが……忘れたか。お前は仮面をだした月牙でさえ、俺のことを倒せなかった。仮面をださない月牙など、どう使おうが無駄なことだ」

 だが、黒崎一護は何度俺から一太刀浴びせられようとも――呆れるほどしぶとく、俺に立ち向かってくる。
 その眼差しは、かつて俺が井上織姫の瞳の中に見出したものでもあった。
 そして俺は、そういう瞳をしている時の女のことが、好きだった。

「黒崎くん……」

 女が、時折死神の名前を呼ぶのが俺の耳にも届いていた。
 黒崎一護に傷ついて欲しくないが、それでいて同時に俺が負傷することも快いとは思わぬ女。
 その矛盾に絡めとられて、体も心もがんじがらめにされている井上織姫に――思わぬところ、闇の中から二対の腕が伸ばされつつあった。

「捕まえた。あたしのこと憶えてる?憶えてないかもね。あんたみたいな化け物が、あたしみたいなフツーの奴のこと、憶える必要ないものね!
 でも、そうして階段の上に腰掛けてられる時間も終わりよ。
 藍染様は言われたわ。あんたは“用済み”だって。わかる?これでもうあんたに何をしても、藍染様のお叱りを受けることはなくなったってことよ。
 だから、あんたがあたしから奪っていった何もかも、今度はあたしがあんたから毟り獲ってやるわ……!!」

 ――ビリィッッ!!!
 女が服を毟りとられていることに気づいて、黒崎一護の霊圧が一瞬そちらへ逸れる。

「井上!!」

(やれやれ。貴様が余所見をできるほど、俺は甘い敵ではないはずなんだがな……)

 俺は黒崎一護に一太刀くれてやれる機会をあえて逃してやり、攻撃の手を緩めてやることにした。
 あの女たちは確か――かつて井上織姫に対して、勝手な振るまいをしたことのあるフラシオンだった。
 藍染様から謹慎処分を受けていたはずだが、今のこの状況となってしまえば、その命もあまり意味をなしていないといっていい。

「なんだ、あいつら!?」

「来るなっ!!近づいたらこいつの目玉、抉りとるわよ!!」

 お姫さまを助ける騎士よろしく、俺のことはそっちのけで、月牙を放とうとする黒崎一護。
 だが、俺は奴の目の前にあえて立ち塞がってやった。
 クアトロ・エスパーダたる俺のことを放っておいて、他に攻撃の対象を移そうとするなどとは――戦闘の最中に他のことに心を奪われるとは、それは戦いにおいて有利に立っている者のみに許されることだと、何故この死神は理解しないのか。

(おまえらのその甘さ……本当に反吐がでる)
 
 ロリとメノリという名のフラシオン目がけて放たれた月牙天衝を、俺は同等の霊圧によっていとも容易く弾き返してやった。

「ウルキオラ……!!」

「勘違いするな。おまえらを助けたわけじゃない」

 ガン!!!とやけにムキになって、黒崎一護が刀剣を真上から振りかざして寄こす。

「どけ……!!」

「退かせてみろ」

 俺はわざと、黒崎一護のことを挑発してやった。

「俺以外の敵と戦いたければ、俺を殺してからにしろ」

 こうして俺が黒崎一護と剣戟を交わしあう間にも、井上織姫は衣服を剥がされ、髪の毛を引っ張られと、女ふたりから好き放題の暴行を受けている。

(俺にあの女を助ける理由は最早ない……だがもし、最悪の場合には――……)

 そう思い、黒崎一護と同じく、井上織姫の様子を俺が眺めていた時、不意に地鳴りのような音が響いてきた。

 ――ゴゴゴゴゴ………!!!!!

(ヤミーの奴か……)

 霊圧から俺がそう察した時、ゴバアッ!!と床が割れて奴の巨体が姿を現していたのだった。


 ~The Greed~

「ウ~ル~キ~オ~ラ~あ。手伝いにきてやったぜえ~~」

「俺がいつ手出ししろなどと言った、ヤミー」

(まったく、肝心な時に突然現れやがって、鬱陶しい奴だ……)

 俺はそう思いつつ、ヤミーのことを振り返った。
 
「つれねえ事言うなよ。その死神のガキ、随分強くなったみてえじゃねえか。
 俺にもやらせろよ」

「――……そうか。どうやら、<完全に回復>したらしいな。
 だが、お前の仕事はここにはない。おまえは戻って寝るか、下の隊長格どもを片付けていろ」

「なんだよ、ケチケチすんなよ!ウルキオラ!!」

「<その状態>になると、我儘が増すのはおまえの欠点だ、ヤミー」

 今すぐにも一暴れしたかったのだろうヤミーは、かわりにメノリという名のフラシオンを、拳の一振りで柱へと叩きつけていた。
 ロリという名のフラシオンが、血相を変えて相棒の名前を叫んでいるが、おそらくは即死だろう。

「メノリ!!!」

「ウルキオラぁ!なんでこのメス犬どもが、こんなとこ居やがんだぁ!?」

「そいつらに訊け」

 俺は吐き捨てるようにそう言ってやった。
 井上織姫は、フラシオンの女ふたりにされるがままになっていたわけだが――この女が何故こうも無抵抗なのか、俺は理解に苦しんだ。
『助けてっ!!』と、誰彼かまわず叫び求めるでもなく、当然俺に自分の窮状を救って欲しいわけでもなく……かといって黒崎一護に自分を守ってほしいと切望しているわけでもない。

(自分自身に覚悟が足りんから、貴様はそういう目にあっても何もできないのだと、何故気づかない?)

 俺は軽く苛立ったが、とりあえず女が無事で良かったような気はしていた。
 いや、もはやそんなことは俺とは一切関係はない、か……俺はもうあの女の世話係兼お守り役からは解放されているに等しかったのだから。

「オイ、てめえら。ザコのくせになんでこんなトコ来てんだァ?ジャマくせえぞ。
 ――死ねよ!!!」

 ゴッ!!と強い霊圧とともに、ヤミーが残るひとりのフラシオンのことも片付けにかかった。
 今の状態のヤミーをわざわざ止めようとは、俺も思わない。
 好きにすればいいとしか、思わなかった。

「井上!!!」

 ヤミーがフラシオンのことだけでなく、井上織姫にも危害を及ぼすだろうと判断してか、黒崎一護がまたも余計な行動をとろうとする。

(俺を嘗めるな、というのが、これでもわからんか、小僧……!!)

「くどいぞ。俺を殺してからだと言ったはずだ、死神」

 ギリッ!!と黒崎一護と刀を交えあいながらも、俺の視界の隅には、ロリという名のフラシオンが解放後の姿になっているのが見えていた。
『百刺毒娼(エスコペンドラ)』とは、いかにもあの女らしい、本性そのものの姿であるといえただろう。

「あんたに……あんたなんかに!あんたなんかにやられるために、あたしはここに来たんじゃないのよ、ヤミー!!!
 あたしの毒であんたもウルキオラもどいつもこいつも、グチャグチャにとかして殺してやるわ!!!」

 フラシオンの女の威勢がよかったのは、最初のうちだけだった。

 あっという間にヤミーに一撃にされ、致命的な怪我を負った上――ヤミーが開けた壁の穴から、すぐさま放りだされている。

「まっ……待って!!!」

 井上織姫が咄嗟にそう叫ぶのを、俺は見ていた。
 黒崎一護は気が気でないといった様子で、女のほうに集中力がすっかり削がれている。
 こんな敵を相手にとどめの一撃を加えたところで――面白くもなんともない話だった。

(馬鹿な女だ……これで自分の身を傷つける者から解放されたというのに、そのことを素直に喜べもしないとは)

 とはいえ、もちろんこのことは井上織姫から脅威のすべてが去ったことを決して意味しはしない。

「よォ、ウルキオラ。この女はもう殺していいんだっけか?」

 ズンズンと重い地鳴りのような音とともに、ヤミーが井上織姫に手をかけようと近づいていく。

「待て!!」

 ギィン!!!と刃と刃を交えあいながらも――<自分が手加減してもらっている>という現実に、この死神はまるで気づいていないようだった。いや、気づく余裕すらないのか……そして俺が、

『ヤミー、藍染様の命が確かに下るまで、その女は生かしておけ』

 と言いかけた瞬間のことだった。

 ヤミー自身が先ほど開けたばかりの穴から、眩いばかりの蒼い光とともに、弓を引く人間の姿が現れたのだ。

「石田!!!」

 仲間と再会できた驚きと嬉しさからか、黒崎一護にはまたも一瞬の<隙>が生まれていた。

(まったく、戦い甲斐のない小僧だ……)

 ドン!!!という強い衝撃とともに、ヤミーの左肩には霊子の矢が突き刺さっている。
 だがまあ、あの程度では大した傷にもならないだろう。

「なんだテメエ、ゴラァ!!!どっからわいて出やがった!!!」

「あれだけの力で撃って貫通しないのか……頑丈だな。
 だけど、その先は気をつけて。
 胡散臭い科学者からもらった、アランカル専用の地雷を仕掛けておいたから」

「!?」

 ――俺は、突然の巨大な爆音に、思わずそちらへ視線を向けた。
 黒崎一護もまた刀を引き、俺とまったく同様に驚いた様子を見せている。


 ~The Pride~

「一体なんだ!?」

 強い爆風にさらされ、黒崎一護は驚愕したようにその震源となっている方向へ目を向けている。

(アランカル専用の地雷か……なかなかやるなと言ってやりたいところだが、逆に言えばそうまで姑息な真似をしなければ、奴は俺たちに勝てないと自覚しているということだ)

「くそ……ガキがぁっ!!」

 ヤミーはかろうじて、床に開いた穴に左手でしがみついているようだったが――石田とかいうクインシーが、奴を突き落としにかかっていた。
 だが俺には、今のヤミーを助ける気は毛頭ない。
 奴がいなくても、黒崎一護と石田というクインシーのことは、俺ひとりで十分に片をつけられるからだ。

「――下の階からでも聞こえてたよ。君がザエルアポロの言ってた“ヤミー”だろう?」

「あ゛ァ?だったらなんだってんだ!?」

 またも霊子の矢が、床に向かって突き立てられているのが見える。

「気の毒だと思ってさ。僕がここに現れなければ、もう少し暴れられただろうに。
 運がなかったね、同情するよ」

(――馬鹿な奴だ)

 くっそおおおおォォ!!と叫んで、破壊された床とともに落ちていくヤミーのことを、俺はそう思いながら見下ろしていた。

(相手の力量も計らんうちから、無闇やたらと飛びだすからだ……奴のあの欠点は、いくら痛い目を見ても直らんらしいな)

「ここにくる途中のすべての階で柱を幾つか折っておいたから、きっと地上まで一気に落ちられるよ」

 ――とりあえず、このクインシーという奇妙な闖入者のお陰で、ラス・ノーチェスの大広間は静けさを取り戻しつつあった。
 服を剥がされた状態で、恐怖に身を竦めるように座りこんでいる女と、自分こそが本当は<運がない>とまだ気づいていないクインシー、そして黒崎一護という名の死神……俺は我ながら御親切にも、奴らに事態を説明する猶予を与えてやっていた。

「……石田」

「なんだ。戦闘中に質問か?呑気な奴だ。
 何が訊きたい。俺は涅マユリの治療を受けた。
 阿散井を先に治療したから、僕は遅くなった。
 地雷はその涅に持たされた。
 霊圧センサーの範囲内にアランカルが入ると爆発する。
 下の階の天井を削って埋めておいた。
 ――他に何か、疑問があるか?」

「最初からギモンなんかいっこもねえよ。勝手にベラベラ喋りやがって、めんどくせー奴」

 そう言って、黒崎一護は微かに笑いながら、自分の<仲間>たちに背を向けていた。
 そして、再び俺と対峙すべく、こちらを振り返る。

「俺の霊圧が井上の六花で防ぎ切れなくなったら、オマエが体張って守ってくれ」

「――言われなくてもそのつもりだ」

(……これで、とりあえずはまあ、俺も女のことなど微塵も心配する必要はなくなったわけだ)

 俺はそう思いつつ、いまだ力の差のなんたるかもわからず、こちらへ挑もうとしてくる死神と向き合った。

「待たせたな、ウルキオラ。
 いくぜ……これがおまえの見たがってた、虚(ホロウ)化ってやつだ」

 黒崎一護が獣神の如き仮面を顔に纏うと、一気に霊圧が跳ね上がった。
 奴が剣に纏いつかせている黒い月牙は、先ほどのものとはまるで比べものにならない。
 力も、速さも、何もかもが数段上だった。
 ガン!!!と剣と剣、霊圧と霊圧とがぶつかりあった瞬間――ビキィッ!!と俺の刀に一瞬ヒビが入った。

(だが、この程度ではまだまだだ……死神!!!)
 
 中空で一転し、奴の攻撃の威力を逸らす。
 そしてそのまま俺は、折りよくヤミーが開けていってくれた壁の穴から、外へ飛びだした。
 まずは小手調べとして、虚閃を放つことにする。
 だが、多少驚いたことには――奴はまったく無傷のままだった。

(そうか、黒崎一護……ならば………)

 こうこなくては面白くない、俺はそう思いながら、ソニードによって空の高みを目指していった。
 あの白い雲の浮かぶ青い空は、藍染様が作られた、偽りの空……その天蓋を砕いた先こそが、俺が唯一真の姿を現せる場所だった。

「待てっ!!」

(そうだ、追いかけて来い、黒崎一護。今度こそ、俺とおまえとの間ではっきりと決着をつけてやる)

 ラス・ノーチェスの天蓋の外――そこは言うまでもなく、夜の闇と月の光だけが支配する世界だった。
 
(俺が真の姿を現すためには、明るい昼間の光などは似つかわしくない……そう、夜の帷と月の淡い光。これこそが俺が解放した姿を現すのに相応しい……)

「ここは――ラス・ノーチェスの天蓋の上なのか……?」

 俺が先に天蓋に穴を開けていなければ、到底信じられなかったというような口調で、黒崎一護がそう問うていた。

「そうだ。クアトロ以上のエスパーダは――“天蓋の下での解放”を禁じられている」


 ~The Sloth~

「ラス・ノーチェスの天蓋の下で、禁じられているものが2つある。1つはエスパーダのために存在する虚閃、“王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)”。そしてもう1つが、クアトロ以上のエスパーダの解放――
 どちらも強大すぎて、ラス・ノーチェスそのものを破壊しかねないからだ」

 俺はここで、刀剣を解放すべく、剣を下方にいる死神へと向けた。

『鎖せ、黒翼大魔(ムルシエラゴ)』

 翡翠色の刀剣から解放された圧倒的なまでの霊力が、黒い雨となって降り注ぐ。
 塔の下にいる黒崎一護に、果たして俺の解放後の姿がはっきり見えているかどうかはわからなかったが、俺からは奴が仮面の下で目を瞠っている顔の表情がよくわかっていた。それで、奴からも俺の黒い翼の生えた姿と、霊圧の変化がわかっているに違いないと判断する。

「動揺するなよ。
 構えを崩すな。意識を張り巡らせろ。一瞬も気を緩めるな」

 ガシャッ、と刀を構え直している死神に対して、俺はそう忠告しておいた。
 ――何故なら、今の奴と俺とでは、そのくらい霊圧の差に歴然たるものがあるからだ。

(この姿になった以上、もはや先ほどまでと同じように、力の加減をしてもらえるとは思うなよ、小僧!!)

 ヴン、と右手に霊力を集中させて作った剣を持つと、俺は一瞬のうちに黒崎一護のいる塔の下まで舞い降り、奴の首を斬り落とすべく攻撃姿勢に入った。

 途端――ドン!!!と、互いの霊圧同士がぶつかりあい、周囲に衝撃波が広がっていく。
 黒崎一護が反射的に月牙を放ったのだ。

「反射的に月牙をだしたか……賢明な判断だ。
 そうしていなければ今ごろ、貴様の首は俺の足許にあっただろう」


 ~The Wrath~

 仮面が割れ、そこから血を流す無残な姿の黒崎一護……奴の命を救ったのは、ゼロコンマ数秒ほどの奇跡的な反応速度によるものだ。

「貴様のホロウ化とやらの能力は増大している。仮面をだしていられる時間も増した。
 だが、こうも容易く割れるとはな――残念だ」

 俺は右手に持つ剣を、槍を放つ時のように、黒崎一護の心臓目がけて投げつけてやった。
 
(そう、藍染様の命に従い、俺はこの死神を弊さねばならない。その決定事項には今も変化はない。
 が、しかし……)

 ――それならば何故、俺は今も親切に、奴に対して手を抜いてやっているのか?

 鋭い霊力の槍が、黒崎一護のことを捉えることはなかった。
 だがまあ、それは当然だ。
 奴がよけられるように、わざと力を加減しておいたのだから……。

(俺がこいつを殺す瞬間を先伸ばしにしているのは――あることにまだ<答え>がでていないからだ)

 黒崎一護と斬撃を交し合いながら、俺はなおも考え続ける。

(あの女……井上織姫がロリとメノリという名のフラシオンに、俺が不在の間何をされたかは知っている。
 だがあの女はそのことを許し、あろうことかあいつらの怪我まで治してやったという。
 ところが藍染様にあの女が不要とされるやいなや、今度は報復としてまたも手ひどい目にあわされたというわけだ。
 これで今度こそあの女の目も覚めるかと思いきや――そうはならなかった。
 ロリという名のフラシオンがヤミーの手によって外へ放りだされた時、あの女は本気で相手の命の心配をしていた……俺にはそのことが、手にとるようによくわかる)

(だが、俺はこの男を殺さなければならない。
 井上織姫、おまえが黒崎一護にすべての<答え>を託していることは俺も知っている。
 つまり、俺がおまえに求めている<答え>とおまえがこの死神に求めている<答え>はおそらく同じものだということだ……だから、俺はこいつを殺すのをいつまでもためらっているとでもいうのか?)

「黒崎一護、月牙を撃て。
 その姿がおまえの最強の姿、月牙がおまえの最強の技なら、今ここで俺に撃ってみせろ。
 力の差を、教えてやる」

(だが、俺には決して認めることはできん。
 力の弱い者が強い者を従えるなど、ここウェコムンドのような場所では絶対にありえぬことだからだ。
 井上織姫、おまえは弱い。そして弱くて強い。
 そして黒崎一護というこの死神も――心在るがゆえに、その弱さによって滅びを免れえんのだ)

「月牙を撃ってみろだと……!?フザケやがって。
 そんなもん、言われなくても――そのつもりだ!!!」

 それは、おそらくは今までで最大の霊圧によって放たれた、『月牙天衝』だった。
 だが、解放後の姿となった俺には、それでも掠り傷ひとつ付けることはできなかった。
 奴の月牙は確かに俺を直撃しはしたが、霊膜を自分の周囲に張り巡らせることによって、俺はその威力から易々と身を守ることができていたからだ。

(この俺をあんまり失望させてくれるなよ、死神……)

「やはりな。所詮は人間のレベルか」

「……無傷、だと………!?」

 仮面の下に驚愕の表情を張りつかせているであろう死神に、俺は残酷な真実を教え、またその目に焼きつかせてやることにしようと思った。

「確かにおまえの黒い月牙は、俺たちの虚閃によく似ている」

「……虚閃だと?そんなモンと一緒にすんじゃねえ………」

「そうか。おまえはまだ見ていないのか。
 最後だ。見せておいてやる。
 これが解放状態のエスパーダの放つ――黒い虚閃、“黒虚閃(セロ・オスキュラス)”だ」


   ~The Lust~

 黒虚閃の前に、黒崎一護の仮面は無残にも完全に砕け散った。 

(これで俺は永遠にあの女から<答え>を得ることはない……そして井上織姫もまた、同様にこの男から<答え>を得られることはなくなるだろう)
 
 塔の上から真っ逆様に、垂直に落ちていく黒崎一護のことを、その途中で捉え、俺は容赦のない一太刀をさらに加えてやった。

(もう、<答え>などどうでもいい……死神が支配する世界は終わり、人間は滅びの道を辿ることとなろう。弱い者が力の強い者を支配することなど出来ぬ以上――それは自明の理というものだ)

「理解したか?おまえの姿や技がいくらアランカルに似ていようとも、その力は天地ほどにも隔たっている。
 人間や死神が力を得ようとホロウを真似るのは妥当な道筋だが、それで俺たちホロウとおまえたち人間が並ぶことなど永劫にありはしない」

「はっ。はっ、はァッ。げほっ。ぐふっ……」

 血を吐き、満身創痍となってなお、力の差が歴然たる相手に挑もうとしてくる死神……黒崎一護。
 刀を構え、立ち上がったその瞳には、まだ絶望と呼ばれる感情は映しだされていなかった。

(こいつもやはり、おまえと同じだ、井上織姫。やられてもやられても、何度も立ち上がり、そして決して諦めないのだ、<何か>を……だが、<それ>が何かなどと聞いてみたところで今更愚問だろうな)

「――月牙………」

「無駄だと言っているんだ!!!」

 この状況にあって今なお、月牙を放とうとする黒崎一護のことを、俺は一喝していた。
 何故、そんなにも感情が表に溢れでてしまったのかは、俺自身にもわからない。
 ただ……井上織姫が<答え>を託しただけのことはある『何か』をこの男が持っているということに、もしかしたら俺は苛立っていたのかもしれなかった。

 これでとどめとばかり、俺は横殴りに奴の腹を切り裂いてやった。
 霊圧の衝撃で、塔の上部ごと、黒崎一護の体が吹き飛ばされる。
 俺はそんな奴のことを追いかけ、さらに一太刀浴びせてやった。
 そしてまだ崩されていない塔の天辺に、黒崎一護という死神のことを追いつめてやる。

「何故、剣を放さない。
 これだけの力の差を目にしても、まだ俺を倒せると思っているのか?」

 襟首をつかみ、奴の足が地面に届かぬくらいに持ち上げてやる。
 すると、黒崎一護は俺に対して、耳を疑うような信じられないことを言ったのだ。

「――……力の、差か。それがなんだ?
 てめえが俺より強かったら、俺が諦めるとでも思ってんのか?」

 黒崎一護が言い放った言葉は、俺にとって衝撃的なものだった。
 弱い者が強い者に征服されるのは、ある意味当然のことだ。
 仮にその相手が藍染様とて、彼が俺たちアランカルよりも弱い霊圧しか有していなかったとしたら――ウェコムンドの王はいとも容易く入れ替わっていたことだろう。
 それを、この男は……。

「てめーが強いのなんか、最初ッからわかってんだ。
 今更てめえの強さなんか……いくら見たって変わりゃしねんだよ。
 俺は、てめえを倒すぜ……ウルキオラ」

 ――いや、そうじゃない。
 この男の瞳の中に、まだ希望の光のようなものが存在しているのは……真の絶望というものを、こいつが知らないからに他ならない。
 だったら……。

 俺は黒崎一護の襟首を掴む手を離し、奴の体を地面に落としてやった。

「戯言だ、黒崎一護。
 おまえのそれは――真の絶望を知らぬ者の言葉だ。
 知らぬなら、教えてやる。これこそが、俺のこの姿こそが、真の絶望の姿だということをな」


   ~The Lust2~

「“レスレスクシオン・セグンダ・エターパ”
 エスパーダの中で俺だけが――この二段階目の解放を可能にした。
 この姿は、藍染様にもお見せしていない」

 もはや俺の霊圧は、人間が感じるものとしては超大すぎて、感覚が麻痺してしまうほどに膨れ上がっているはずだった。
 だが、黒崎一護はこの期に及んでなお、刀を両手から放そうとはしなかった。
 それでも、刀身が微かに震えていることから、恐怖のあまりに何も感じられなくなった無意識の行動というわけでもないらしい。

「この姿を目にして、まだ戦う意志があるとはな」

(いい眼だ、黒崎一護……恐怖を感じぬほど、混乱しているという訳でもなければ、命を捨てる覚悟を決めた目というわけでもない。
 だがもし貴様が、まだこの俺に勝てると思っているとしたら、それは……)
 
「いいだろう。
 ならば貴様の五体、塵にしてでもわからせてやろう」

 ――おそらく、続く一連の俺の攻撃は、奴の目では追えぬほどに速いものだっただろう。
 それでも反射的に刀を前にだし、防御の構えをとる。
 中途半端に強いがゆえに、楽に死ぬこともできんとは……俺は目の前の死神に対して哀れみに近い感情さえ覚えはじめていたかもしれない。

(この男が死ねば、井上織姫が悲しむ、か。
 くだらんな。何故一瞬でもそんなことを思った?あの女の顔を脳裏に思い浮かべたりした?)

 俺はそんな自分が反吐がでそうになるほど腹立たしくて、次々と黒崎一護に対して攻撃を繰りだしていった――もう、手加減をするつもりは一切なかった。

「愚劣だ、黒崎一護!
 恐怖を感じるほどの実力差の相手に、勝てるつもりで戦いを挑む。
 理解の外だ!!」

 再び仮面を出現させた黒崎一護と、俺は斬り結び、奴の体ごと、塔の上部をふたつ粉砕してやった。

「それが貴様らの言う<心>というもののせいならば、
 貴様ら人間は心を持つが故に傷を負い、心を持つが故に命を落とすということだ」

「別に、勝てるつもりで戦ってるわけじゃねえよ……
 勝たなきゃいけねえから、戦ってんだ……!!」

「戯言だ、黒崎一護」

 俺は、長くて黒い尾によって、もはや立っているのもやっとなはずの死神――宿敵の首を締め上げてやった。
 普通の人間であれば、とっくの昔に絶命していたことだろう……
 その点については、この男のことを賞賛してやって余りあるくらいだったかもしれない。

 そしてこの時、この場所に似つかわしくない霊圧がふたつ、近くへやってくるのを俺は感じた。
 ひとつは例のクインシー、そしてもうひとつは言うまでもなく井上織姫のものだった。

「……来たか、女」

 これ以上はないというほどの、これは劇終の場面だった。
 出来れば女の目には、黒崎一護を手にかけるところを見られたくはなかった――だが、何故そんなことを思ったりしたのか、今は不思議で仕方がない。
 二段階層目のこの恐ろしい姿も、女には見せるべきではない、何故一瞬でもそんなことを思ったりしたのだろうか?

(結局はすべてこれで良かったのだ。この黒崎一護という名の死神は、他でもないこの俺の手にかかって死ぬ。
 それは最初から定まっていた運命のようなものだ。何故それを覆す手立てについて考え、自分は戦いの手を抜いたりしたというのか?)

 そうだ、あの女にも見せてやればいいのだ……と俺は思った。
 絶望のしるしが、自分と同じく黒崎一護の心臓の上にも刻印されるところを。

「く、黒……崎、く……ん?」

 信じられないものを見たというように、大きく見開かれた女の瞳。
 驚愕に震えている声……。

 その女の声を聞いて、また震えるような眼差しを見下ろして、むしろ決心のついた自分に俺は驚いていた。

「ちょうどいい、よく見ておけ。
 おまえが希望を託した男が、命を鎖す瞬間をな」

「やめて!!!!」


   ~The Lust~
 
「いやあああああああ!!!」

 女の絶叫が、耳にこだましている。

 黒虚閃によって、心臓に大きく穴の開けられた黒崎一護の死体を、俺はゴミでも放りだすように、尾で投げ捨ててやった。

 ここに至って俺は初めて――今この場にいる俺以外の人間三人が、何を信じて、また何に縋ってここウェコムンドまでやって来たのかがわかったような気がしていた。

 それは平たく言うとすれば、いわゆる<奇跡>というものだった。

 奴らは、自分たちの行動を<正しい>ものと信じ、また正しく物事を行っている人間には<奇跡>が起きるものと、無意識のうちによってか知らないが、愚かにもそう信じてここまでやってきたのだ。

 一度奇跡が起き、二度奇跡が起き……三度も奇跡が起きたとなると、四度目も五度目もそれがきっと起きるに違いないと、そうこいつらは闇雲に信じてここまでやってきたのだろう。

 俺は最初、人間が三人と死神が二人、命知らずにもここウェコムンドへ乗りこんできたと聞いた時には――心底驚いたものだった。奴らの愚かさに、というよりは勇敢を通り越して気違いじみているその行動力に、だ。

 何故といってそれは、エスパーダのうちのひとりが、自分よりも能力の劣る部下数人を引き連れて、ソウルサソエティの本拠地に乗りこむに等しい行動だったからだ。しかもその理由というのが、さらわれた仲間のひとりを助けるためだというのだから、また笑わせる。

 だが俺は――井上織姫という女を見ているうちに、多少考えを変えていた。
 所詮アランカルなど、苦痛と恐怖の中で生まれ、そして再び混沌の闇へ帰すというだけの存在に過ぎない。
 藍染様は確かに、死神に狩られるだけの運命である我々を変えられるだけの力を持ったお方ではある。
 だがいつかは俺という存在とても、<不要>とされれば消される運命にあるだろう……にも関わらず、何故戦うのかと問われれば、理由はおそらくこいつらと一緒なのだ。

 俺の目には最初、井上織姫という女の存在が不思議なものとして映っていた。
 だが、今は違う。
 自分が希望を託した男が目の前で命を落とし、半狂乱になって泣き叫んでいる女。
<奇跡>がきっと今度も起きるはずと、無邪気にも信じたその心が裏切られて――どうだ、今この女は絶望の淵にいる。

(だったら、俺のものになれ、女……)
 そうこの時俺は思った。
 俺には最初から失うものなど何もなかった。
 生まれ落ちたその瞬間から、自分という存在に絶望していたからだ。

 そしてその気持ちを自分以外の誰かが理解することなどありえないと思っていた。
 だが、今その俺の目の前で<奇跡>が起こりつつあった。
 自分のように、自分と同じく絶望で黒く闇のように染め抜かれた心の持ち主を――俺は見つけたのだ。

「無駄だ。
 近づこうと、おまえ程度の力では、奴の命を繋ぐことはできん」

 女を無理矢理にでもさらおうとした俺の前に、クインシーの邪魔が入った。

「光の雨(リヒト・レーゲン)」

 ――小賢しい、小手先だけの技だ。
 この程度では、俺の体に掠り傷ひとつ付けられないと、何故わからないのか。

「意外だな。
 おまえは黒崎一護の仲間の中で、もっとも冷静な人間だと踏んでいたんだが」

「……冷静さ。だから君と戦う余裕がある!」

 とりあえず、女のことは黒崎一護の元へあえて行かせた。
 あの黒虚閃によって開けられた穴は、あの女の能力では治癒が不可能だった。
 ようするに、事象の拒絶という女の力にも、限界はあるということだ。

 一度存在した絶望を、なかったことには出来ない。
 一度生まれ落ちてしまった存在を、元に返すことなど、決して出来はしないのだ。
 もし井上織姫にそこまでの能力があるというのであれば、俺は真っ先に願っていただろう、今この場所にいる、他でもない<俺>という存在をないものとして拒絶してくれ、と。

 だが、それが叶わぬ願いである以上は――……

(おまえは、俺と一緒に来い、女)

 そうやって、どこまでも絶望の底へ墜ちていきたい。
 そしてその場所は、いつもひとりでいるべき場所なのだと、俺は信じて疑いもしなかった。
 だが、今は道連れにしてやりたい女がひとり、存在する。

 それこそが、俺にとっては<奇跡>だった。
 胸に熱く、強い欲望が刻印されているような、ただひとつの奇跡だ。



 終わり




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